53:横槍
翼をはためかせたセラはゆっくりと着地すると“
(落ち着いて…ちょっとずつ…)
“
レイルによって研き上げられた魔力操作、フラウから授かった魔術の更なる理解、そしてセラ自身の才覚が顕現魔術を可能にさせた。
“
(…終わった?)
完全に活動を停止している残骸を見ながら思案する、あれほど自らの生に執着していたアステラの最後がこれほどまで呆気ないものだろうか、そんな考えが頭をよぎるがすぐにやめて巨人の心臓がある方へと向き直る。
壁に手を触れると風魔術で削り、氷魔術で再生を阻みながら穴を広げていく、それを繰り返す事で少しずつ壁を穿っていく。
「レイル、無事でいて…」
逸る心を抑えながらセラはぽつりと溢した。
―――――
「竜剣術『
「魔剣術『
加速した剣がぶつかり合う、影すら置き去りにする程の斬撃の応酬は空間に絶え間なく刃が交わる音を響き渡らせた。
ゼルシドが上段から勢いに乗せた一撃を振り下ろす、レイルは瞬時に剣の峰に腕を添えて構えるとゼルシドの一撃を受け流しながら流れる様にゼルシドに体当たりを掛けた。
(衝撃をいなして繋げやがった!)
吹き飛ばされながらも瞬時に体勢を整えたゼルシドは間髪入れずレイルに迫る、繰り出される一撃一撃を防ぐレイルを見てゼルシドは確信した。
「王国流剣術なんぞいつの間に身に付けやがった!?」
「色々とあったんですよ!」
互いの剣を交わせながら叫ぶ、ゼルシドが言う通りレイルがゼルシドの攻撃を防ぐ際にゾルガ将軍が使う王国流剣術が使われていた。
レイルとゼルシドが使う剣術と違い王国流剣術は攻撃ではなく自身の身を守る事に重きが置かれている、ゼルシドの剣術が攻撃と防御が一体としたものとするならば王国流剣術は攻撃と防御の切り替えというべきものだ。
それ故に守りに入って劣勢という訳ではない、相手の攻撃を受け止める事を前提とした戦い方をレイルはゾルガとの戦いから学んでいた。
(そういう所は変わってねえか!)
幼少の頃からレイルは技の習得に時間が掛からなかった、一度技を見せれば次の日には形にはなるぐらいに使いこなせた。
相対した者の技を自分が使えるものに落とし込む、剣士として破格の才能と傲らず鍛練を怠らない性格、それが今ゼルシドと戦う事でより一層研ぎ澄まされていた。
一瞬だけ笑みを浮かべたゼルシドは距離を取りながら自身とカリギュラの魔力を剣へと注ぎ込む、膨大な魔力は剣から溢れ出して巨大な鉤爪の様な刀身を作りあげた。
「レイル、てめえも今使える全力を出してみな、でねえと死ぬぞ!」
カリギュラの魔力に半身を覆われたゼルシドが叫ぶと同時に刀身が赤黒く輝く、カリギュラの魔力に染まった眼は振り下ろされる瞬間を今か今かと待ち焦がれるかの様に輝いていた。
レイルは剣を構えると魔力を注ぎ込む、自身が持つありったけの魔力を使ってゼルシドと同規模の黒い刀身を作り出し“
「竜剣術“
「魔剣術『
身の丈を超える刃を互いに構えたレイルとゼルシドはほぼ同時に踏み出す、巨大な鉤爪の様な刀身が空間ごとレイルを引き裂かんと振るわれ、レイルの紅蓮の大剣が雷火を迸らせながら薙ぎ払う。
今までと比にならないほどの衝撃と轟音が空間に伝播する、赤黒い鉤爪と紅蓮の牙が目の前にいる全てを引き裂かんとしながら互いを削り合った。
あまりにも巨大な力の衝突にお互いの刀身が砕けて衝撃波が二人を吹き飛ばす、レイルは壁際まで吹き飛ばされ、ゼルシドは巨人の心臓の近くまで転がっていった。
「くっ…」
「ちぃっ…」
お互いに魔力は底を尽きかけていたがそれでも立ち上がると再び剣を構える、満身創痍でありながらも二人が放つ気迫は誰かが介在する余地などない様に思えた。
「もう良いでしょう」
その言葉と共にゼルシドの胸を背後から槍の穂先が貫く、穂先は傷を捻りながら引き抜かれるとゼルシドは糸が切れたかの様に倒れた。
そこには右腕の肘から先が槍と化したアステラが立っていた…。
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