52:顕現


元の姿へと戻った獣は竜頭からセラに向けて炎を吐き出した。


風魔術で炎を逸らすと同時に身体強化を掛けて逆方向に避けると続けざまに虫頭が溶解液を吐き出す。


セラは足下から氷柱を展開して自身を突き飛ばす様に避けると展開した氷柱が溶解液によって溶かされる、宙に身を飛ばしたセラが魔術を放とうとするが鉤爪のついた腕が迫っていた。


瞬時に風魔術へと変更して自身を吹き飛ばすと鉤爪が大気を切り裂いて過ぎ去ると同時に氷刃を放って獣の脇に叩きつける。


着地してすぐさま詠唱を終えると“第三円トロメア”を放つ、凍気の爆弾と言えるそれは獣の横腹に着弾すると爆風と衝撃で巨体を吹き飛ばした。


「「「―――――――――――ッ!!!!?」」」


三頭から異なる悲鳴が上がるが人頭がすかさず叫びを上げて横腹を風魔術で抉り取る、だが範囲が大きかったのかごっそりと抉れた横腹を再生するのに多少の時間を要する様だった。


(今なら…)


詠唱に入ろうとしたが尻尾が再びバラけて幾多もの蛇がセラに向かって伸びてくる、氷柱を剣山の様に発動させると同時に周囲に小規模の爆炎を起こして紛れる。


剣山と爆炎によって幾つかの蛇頭が潰れるが横腹の再生を終えた獣が竜頭から炎を吐き出して氷の剣山を溶かしていくが溶けた剣山の先にはセラの姿はなく、幾つかの炎熱によって溶けかかった氷鏡があった。


獣が手当たり次第に炎や溶解液を吐き出しながら巨体を暴れさせて破壊を撒き散らす、それを天井すれすれまで飛び上がったセラは見下ろしながら詠唱を行う。


「“我は氷獄を統べる者、あらゆる咎を戒める執行者”」


(ひとつの属性を極めるというのはある程度で必ず行き詰まるわ)


フラウから受けた教えを反芻しながらもセラは詠唱を行っていく、その周囲は凍結した空気で白く輝いていた。


「“かつて神と敵対し、信奉せし者達に試練を与えし明けの翼を持ちし者”」


(属性を極めるにはそれが起こす現象、そして相反するものが何故あるのかという事への理解、即ち自身が使えなくても他属性の造詣を深める必要があるからよ)


詠唱を続けていくと空間の温度がより下がっていくと同時にビキビキと音を立ててセラの背中に氷が現れる。


「“神を裏切りし故に裏切りの罪過を戒める者、四つの円の中心に君臨せし王の名を示さん…”」


(それらの事象、相反する属性を理解した先にある現時点での魔術の最奥…)


本来であれば術者が死んでいるであろう冷気の中でセラは詠唱を続ける、だが“氷炎衝嵐ツインテンペスト”という相反する魔術の同時行使を必要とする大魔術を成功させたセラは詠唱と平行して自身の熱を操作する事によって凍死を防いでいた。


(さっきの魔術でようやくものに出来た)


セラがフラウから教わった魔術の極致、今までフラウのみが扱えた姿を消してなお人々に語り継がれる大いなる存在を具現化させる術をセラは発動する。


「“顕現魔術・氷獄王サタン”」


詠唱の完了と同時にセラの背に生えた氷の翼が完成する、それと同時に獣がセラを見上げた瞬間に圧倒的なまでの冷気が空間を支配した。


セラがいる場所を中心に空間そのものが凍てついていく、獣は翼を羽ばたかせて飛び上がるが周囲から獣を串刺しにして磔に出来るほど巨大な氷柱が幾つも現れて貫いた。


「「「――――――――――――ッ!!!!?」」」


獣は暴れまわる、炎や溶解液を撒き散らしながら、魔術や腕、脚と尻尾と余す事なく行使して自らを貫く氷柱を破壊する。


だが破壊した次の瞬間には新たな氷柱が獣を貫く、貫かれた箇所から冷気が流れ込んで徐々に体を包み込んでいきそれを阻止せんと暴れるが詠唱を行う口も炎を吐き出す喉も空間を埋め尽くす冷気が入り込んで内から凍らせていく。


セラは氷の翼をはためかせながらゆっくりと白く染まった手を翳す、すると獣の周囲に冷気の爆発が起きて腕や尻尾が凍てつき砕けてくとセラの手から白い光線が撃たれて獣の胸部を穿つ。


穿たれた胸部を中心に完全に氷に閉ざされた獣は飛ぶ力を失ってゆっくりと白く染まった地面に落ちると凍てついた空間に破砕音を響かせながら粉々になった…。

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