51:個の獣
「くっ!?あぁっ!!」
アステラは背中から顎がついた触手を四本生み出して自らの四肢を咬み千切って拘束から逃れると触手を動かして離れてから四肢を再生する。
千切り落とした四肢が氷槍から送られる冷気で瞬く間に凍りついていくのを確認して寒気が走ったアステラはゆっくりと立ち上がるとセラを見た。
「まさかただ一手で私の魔物達を滅ぼすとは…これが貴方の真の力だったという訳ですか、この僅かな間にこれだけの力を身につけるだなんて…なんて忌々しいのでしょう」
「…貴方にどう思われてもなんともない、終わりにしましょう」
アステラの周囲が薔薇の蔦の様な氷で囲まれる、そして蔦から氷の棘が四方八方から飛び出してアステラを突き刺した。
「このまま凍てつかせる」
セラが魔力を送り込んで冷気を流し込む、並の魔物であれば体内から一瞬で凍りついていき、死に至る威力だった。
「これだけはしたくなかったのですが」
だがアステラは全身を刺され冷気を送り込まれながらも平然と語りだす、確かに冷気を送り込んでいる筈なのに未だ凍りつかないアステラの刺された箇所からはチロチロと火が漏れ出ていた。
「自分で…刺された箇所に火の魔術を!?」
セラがアステラの対処に驚愕するとアステラの体がぼこぼこと隆起する、隆起し膨張していく体は刺さった棘をへし折り囲んでいた蔦を砕いて更に大きくなっていく。
唯一アステラの肩から上は形を保っており、無事な顔がセラを向くと語り始めた。
「認めましょう、貴方は強い、それこそかつて相対した魔女帝に匹敵する程の力を貴方は持っています、それこそ私がどれだけ群を為そうと一蹴してしまえるだけの力を」
膨張する体に血管の様に赤い線が走っていく、全体を覆い尽くす様に線に包まれたそれは巨大な心臓の様であった。
「故に群で勝てないなら個をぶつけましょう、私と神槍の集められた一万の魂を以て生み出される強大な力を持つ個で貴方に勝利し、かつての敗北を塗り潰して差し上げます」
アステラの顔が肉に覆われて見えなくなる、やがて赤い線が肉塊を締めつけていき、徐々にその姿を変えていった。
姿は全長10m近くある竜だった、だが蝙蝠と鳥の二対の翼に四本の水掻きがついた獣の脚と鉤爪を伴った腕に数十の蛇が絡まって出来た尻尾をしている。
極めつけはその頭部は竜の頭の他に昆虫の様な頭とミイラの様な人の頭の三つで構成されておりあらゆる生物を継ぎ足したかの様なおぞましき獣がそこにいた。
「「「――――――――――――ッ!!!!」」」
三つの頭からこの世の物とは思えない咆哮が放たれた。
―――――
咆哮を上げた獣がその巨体を翻して尻尾を振るう、セラが避けると叩きつけられた尻尾はバラけて複数の蛇がセラへと襲い掛かった。
襲い掛かる蛇を氷魔術で凍てつかせる、一瞬で氷像と化した瞬間、人頭が口を開けて叫び出した。
するとセラの頭上に炎の球が現れる、セラは風の魔術で自らを吹き飛ばすと先程までいた場所が凍りついた蛇達ごと炎に焼き尽くされた。
「魔術を使って…」
距離を取ると竜頭が伸びて尻尾を食い千切る、すると食い千切られた箇所がぼこぼこと泡立ち蛇の頭が再生して再び尻尾となった。
再生を終えると獣はセラに向けて突進する、虫頭の首が伸びてセラに向かい、顎が開くと櫛の様に並んだ鋭い歯が露になった。
顎がセラを噛み砕こうとした瞬間、巨大な氷柱が首を貫いて縫い止める、続けざまに氷柱が落ちて虫頭の動きを封じるが虫頭が開いた口から黒い液を吐き出した。
飛び退くと同時に幾多もの氷壁を間に生み出すと瞬く間に氷壁が溶かされる、それは氷だけじゃなく滴りおちた地面すら溶かしていた。
縫い付けられた虫頭を竜頭が根元から食い千切ると新たな頭が再生する、そして竜頭の口の中に炎が灯り始めた。
(再生するなら…)
炎が灯った竜頭に向けて“
(これなら食い千切れない!)
再生の状況からしてこの魔物は傷口が焼けたり凍っていると再生が出来ないと判断してセラは端からではなく体内から凍てつかせようと行動した。
すると虫頭が溶解液を竜頭にかけて溶かすと同時に人頭が叫んで魔術を発動する、すると竜巻の槍が
「なっ…」
獣が自ら穿った穴は泡立ちながら再生すると竜頭も再生を終える、元の姿へと戻った獣は再び三重の咆哮を上げた…。
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