50:唯一の後継


「魔術の組み立ては相殺と相乗だけで決まる単純なものではないわ」


フラウは目の前にいるセラにそう教える。


レイルは目を覚ましてからフラウに教わった通りに魔術と竜の血を操る鍛練の為に別の場所にいる。


「確かに火は水に弱いけれど勢いが強ければ水を消し飛ばしてしまうわ、多少の変動はあっても規模に差があれば相殺が成り立たない事はある」


「はい」


それは身を以て体験した事だ、かつて炎の魔人と化したセネクは圧倒的な火の力でセラの氷魔術を消し飛ばした、過去の事ではあるがあの時セネクはセラの氷魔術より強大な火を生み出していたのだ。


些か苦い記憶を思い出しながらもセラは続きを促した、セラの様子に首を傾げながらもフラウは講義を続けた。


「以前はここまでしか教えなかったけど今ならもっと先を教えられるわ」


「もっと先…?」


「そう、今のセラの魔力量と制御能力なら出来る筈よ」


そう前置きを置いて話す、フラウが自ら得た研鑽の成果を唯一の教え子に…。







―――――


「三属性に変化して…?」


アステラが目を細めながら構える、目の前にいるセラに従う竜を見ながら思案する。


属性が後天的に変化するなど滅多にない、前例はあるがセラ程の魔術士であればもっと前から発現してもおかしくはないし、これまで使ってこなかった事に理由がつかない。


いや、と頭を振ってアステラは思考を中断する、それよりも目の前の事への対処が優先だと判断して力を使った。


吹き飛ばされたキメラントやワイバーンに加えて更に魔物を生み出していく、多種多様な魔物の群れを再び従えてアステラは差し向けた。


(先程の爆発は一体…)


魔術の正体を確かめる為にもアステラは一部を残して突撃させる、突撃も包囲する列を三つに分けて行わせた。


最初に突撃するのは岩石兵ロックゴーレム火炎蜥蜴ファイアリザードなどの火や重量がある魔物だった、それらを爆発の壁にして続く魔物達によってまとめてすり潰す。


アステラが何度も行ってきた常套手段だった、これまであらゆる猛者を幾度となくこれで亡き者にしてきた堅実な一手だ。


魔物が倒されたとしても別の魔物がその穴を埋める、その間に自分は相手と相性が良い魔物を生み出して再び仕向ける、数と自らの意に従った魔物を生み出せるアステラだからこそ成せる一手だった。


セラは襲い来る魔物など意に介さず魔力を練り上げながら二体の魔竜を操る、竜は互いに翼を広げて飛び立つとセラの頭上で円を描く様に飛び、徐々に距離を詰めていく。


…一定の規模を越えた魔術はそれより弱い魔術によって相殺は難しくなる。


では同規模であれば成り立つのか?かと言われればそうではない。


規模が大きくなればなるほど事象も変化する、それは魔術に置いても例外ではない。


今セラが為そうとしてるのはまさしくそれだ、空気を凝縮させ凍てつかせる氷の魔術によって生み出した竜に燃え盛る炎の魔術によって生み出した竜をぶつけ合わせる。


「“氷炎衝嵐ツインテンペスト”」


凝縮した空気によって生み出された氷や冷気に燃え盛り空気を膨張させる高熱の炎が急激にぶつかり合った事によって空間に暴虐が吹き荒れる。


急激に膨張し解き放たれた空気は爆風になって荒れ狂い、炎と氷の礫を撒き散らしながら空間にいる全てを襲った。


ゴーレムやファイアリザードはおろか周囲を覆っていた魔物達はもれなく呑み込まれる、アステラは残していた魔物達を即座に周囲に引き寄せて壁にしたが壁になった魔物は嵐によってなす術もなく打ち砕かれる。


顔を上げたアステラの眼前に広がるのはたったひとつの魔術によって全滅した魔物達だった。


思わず歯軋りをしてしまうアステラの四肢に氷の槍が突き立った…。

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