45:狂気


「おおおおおおっ!」


レイルの咆哮と共に全身から噴き出した魔力が鎧の様に纏われていく、溢れ出す魔力を身体強化へと注いで更に魔術を重ね掛ける。


「“雷加アペンド・ボルト”!」


詠唱と共にレイルの全身に雷が纏わりつくと同時に踏み込む、雷光に覆われた剣がゼルシドの剣とぶつかり合うと衝撃が生み出されてゼルシドをふき飛ばした。


舌打ちと共に構え直すと既に目の前からレイルが消えており、大気を貫く音と共に真横から襲ってきた衝撃にまたふき飛ばされる。


(速ぇっ!?)


魔力を集約させて防御してはいるが圧倒的な速度と威力でレイルはゼルシドを防御の上からふき飛ばす、その速さは文字通りの雷の様であった。


「だが…」


ゼルシドが地面を強く踏むと同時に剣を振り下ろす、すると雷を纏ったレイルの剣とぶつかり鍔迫り合いの状態となった。


「速いだけで動きが真っ直ぐなんだよ!」


ゼルシドの前蹴りがレイルを蹴り飛ばす、だが脚から伝わった硬質な感触に防御されたと理解したゼルシドは舌打ちと共に剣に魔力を込める。


「魔剣術『乱空みだれぞら』」


ゼルシドの剣から弧を描いた斬撃が上下左右から襲い掛かる、鞭の様に襲い掛かる斬撃にレイルは左手に魔力を集中させる。


集中させた魔力が籠手の様に形成されていき指が鉤爪の様になっていく、まるで竜の腕の様な形になった左腕を振るうと襲い掛かる斬撃が蹴散らされる。


「!?」


斬撃を蹴散らしたレイルは両脚にも魔力を集約していくと同じ様に黒い魔力で覆われていく、そして先程よりも速く複雑な軌道を描いて跳ぶ。


ゼルシドの背後へと回り込んだレイルが黒い魔力と共に剣を振り上げる、それに気付いたゼルシドが受け止めるが凄まじい音と共に互いの剣が弾かれる。


「『破掌はしょう爪改つめあらため』」


レイルの剣が地面に突き刺さり、ゼルシドの剣が上空へと舞う、レイルは空いた右手に魔力を集めて竜の腕へと変化させると両の腕から掌打がゼルシドの腹に打ち込まれる。


「がっ、はぁっ!!?」


ゼルシドの体がくの字に曲がって叩き飛ばされる、壁に叩きつけられたゼルシドの体には鉤爪と掌打によって爪と傷の跡が刻みこまれていた。


「“戦うならその身ひとつで戦える様にしておけ”…貴方から教わった事です師匠」


レイルはそう呟きながら剣を取る、すると…。


「くひ…」


ゼルシドの口からその呟きが零れる。


「く、くひっ…くははははははは」


笑う、嗤う、哄笑が漏れ出る。


「くははははははははははははははは!!はーはっはっはっはっ!!!!」


哄笑と共に魔力が吹き荒れる、それは今までゼルシドが放っていた魔力とは異質の魔力だった…。






―――――


「あはははははは!」


アステラが翼を生み出して上空へ飛翔する、そして体中にある顔の部分が膨れ上がっていくとひとりでに千切れていき落ちていく。


それは蠢くと数十のゴブリンやコボルトに変化していき、セラへと襲い掛かる。


セラは襲い掛かるゴブリン達を氷柱で串刺しにしていく、既に周囲には夥しい数の魔物の死骸が散乱していた。


その途中でゼルシドの哄笑と共に異質な魔力の気配が壁越しから伝わる、それにセラは眉をしかめ、アステラは笑みを浮かべる。


「ふふ、少し昔話をしましょうか」


「…急に何?」


いぶかしむセラに対しアステラは笑みを浮かべながら続ける。


「40年前に顕れた狂騒の魔王“カリギュラ”は魔力そのものに狂気が宿る存在でした、カリギュラはただそこにいるだけで世界に狂気を振り撒く存在だったのです…それを殺す為とは言え間近で浴び続けたらどうなるんでしょうねぇ?」


「まさか…」


セラが絶句する中、アステラの哄笑が静かに響き渡った…。

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