44:竜剣術と魔剣術


「竜剣術『疾爪しっそう十連じゅうれん』!」


「魔剣術『黒時雨くろしぐれ』!」


互いに放った斬撃が飛び交い、ぶつかり合って消えていく。


舞い上がる魔力の残滓を突き破ってレイルが斬り掛かる、ゼルシドがそれを防ぐと即座に身を翻して横薙ぎへと繋げる。


ゼルシドは後ろに跳んでかわすと再び剣に魔力を集める、逆袈裟に振るわれた剣から斬撃が放たれるがレイルは『飛翼ひよく』を発動して横に吹き飛ぶ様にかわした。


レイルとゼルシドは『崩牙ほうが』と『絶閃ぜっせん』を発動させて鍔迫り合う、互いに必殺の威力を込めた剣同士を軋ませる音を響かせながらせめぎ合うがゼルシドが身体強化で踏み込んで押し切る。


押し切られた瞬間、自ら後ろに飛んだレイルにゼルシドが追撃を仕掛ける、縦横無尽に振るわれる剣をかわしながらレイルは『天脚てんきゃく』と『飛翼ひよく』を発動させて上へと跳ぶ。


するとゼルシドも足下を砕く勢いで跳躍し、宙を蹴りながらレイルに迫る、空中でふたつの影が飛び交い、時に剣がぶつかり合う音を響かせながら交差した。


ほぼ同時に着地すると互いに向き合う、荒く息を吐きながら構えるレイルは呼吸を乱さないゼルシドに少しだけ歯を噛み締める。


(分かってはいたが…強い!)


力も、速さも、技量においてもレイルの全てを上回っている、持てる全てを剣へと注ぎこんだからこそ辿り着いた剣の極致を歩む者こそゼルシドだ。


極致に至って日が浅いレイルでは剣士としての差は一朝一夕で埋まるものではない。


「あの時よりはマシだが、俺には届かなかったな」


ゼルシドが『絶閃』を発動させて斬り掛かる、レイルも『崩牙』を発動して受け止めるがゼルシドは更に身体強化を強めて押し込んでいく。


「確かに、剣士としては俺は師匠に届いてません」


押し込まれながらも踏ん張ってレイルは呟く、ゼルシドは眉をピクリと動かしながらも力を加えるがそれ以上押し込む事が出来なかった。


「だから俺の全部で戦います」


レイルの体から音がする、血液が暴れる様な、肉が蠢く様な音を響かせながらレイルは剣を押し返す。


「竜剣術『飛翼斬ひよくざん』!」


剣の峰から魔力が噴き出す、『崩牙』の破壊力と『飛翼』の推進力を伴った一撃はゼルシドの剣を弾いて力任せにふき飛ばした。


「てめぇ…」


レイルの肉体の見た目にも変化が起こる、金色の瞳がある顔には鈍色の鱗がうっすらと生えており口からは鋭い牙が覗いていた。


なによりも全身から溢れ出る魔力は普段のレイルとは比べ物にならないほど濃密で膨大な圧が放たれている。


それは自らの影と向き合い、竜の血を受け入れる事で可能となった一時の間だけ人でありながら竜の力を解放し行使する、即ち…。


「“竜血魔纒ドラゴニュート”」


「それがてめぇの力か」


ゼルシドはニイッと口を吊り上げる、そしてレイルに勝るとも劣らない魔力を放ちながら叫んだ。


「いいぜ!殺れるもんなら俺を殺ってみろ!レイル!!」


ゼルシドとレイルが同時に駆け出す、魔王を殺して生まれた剣と竜を殺して生まれた剣が互いの強さを賭けてぶつかり合った…。

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