46:狂騒の魔王

※ストックが切れたので今話以降から隔日更新になりますorz









「ひゃははははははははははははははは!!」


溢れ出した魔力がゼルシドの全身を覆っていく、レイルの様に魔力を全身に纏うと互いの間に突き立っていた黒剣を掴んで斬り掛かった。


ぞくりと悪寒が走ったレイルは後ろに跳ぶ、その直後にレイルがいた場所に剣が振り下ろされると地面が割かれ衝撃波が通り抜けた。


(動きが!?)


息つく間もなく距離を詰めたゼルシドが横薙ぎを放つ、すかさず受け止め踏ん張るがその時見たゼルシドの眼には理性の輝きは消失していた。


「師匠…」


ゼルシドは弾かれた様に跳び退くと影を置き去りにするのではないかという速さで駆ける。


あまりの速さに走った後の地面は砕け、蹴りつけられた壁から巨人の血潮が噴き出す、ウクブ・カキシュの内部でなければ崩落していたであろう破壊の嵐と化したゼルシドがレイルに剣を振るう。


理性を失った筈の一撃はこれまでのものより鋭く重い一撃となってレイルを襲う、剣ごと斬り伏せるかの様か一撃に両脚の鉤爪で床を掻きながら耐えると再びゼルシドは空間を駆け回る。


「ぐぅっ!?」


獣の様に無軌道な動きから骨の髄まで刻み込まれた剣術から繰り出される一撃は竜の力を解放したレイルを容易くふき飛ばす。


縦横無尽などという表現すら生温い駆動に思わず歯噛みする、速度だけで言えばレイルに軍配が上がるだろうがゼルシドのそれは違う。


速いのでなく


戦いの果てに培われた、体そのものに染み込んだ最適化された動きが溢れ出す魔力と膂力を余す事なく発揮していた。


強化した眼と四肢でゼルシドの猛攻を凌ぐがやがて四肢を包んでいた魔力が端から少しずつ薄れていく。


(まずい!)


レイルの“竜血魔纏ドラゴニュート”には時間制限がある、竜の血を最大限に励起させて自らの肉体と魔力を強化するこの技は肉体に急激な変容をもたらすが故に大きな負荷がレイル自身に掛かる。


時間にして十分、それ以上の発動はレイルの肉体が過剰な再生と変容に耐えられない。


発動してから既に五分以上立っている、それがレイルに少しずつ焦燥を抱かせていた。


それがほんの少しの心の隙を生んだ、針先程度の僅かなその隙にゼルシドの剣が放たれる。


(しまっ…!?)


受け止めた剣が腕ごと弾かれる、腕を大きく弾かれた事でがら空きとなったレイルの首に返す太刀でゼルシドの剣が迫った…。






―――――


「苦労したのですよ私達も?」


アステラが体中から魔物を生み出しながら呟く、背中から大蝙蝠イヴィルバットを生み出しながら胴体から数体のハイオークを生み出してセラへとけしかける。


「多少の発露はあった様ですが狂騒の魔王の魔力によって変質する事なく、四十年もの間狂気に耐えるだなんて予想外でしたもの」


ほう、と息を吐きながら呟く、その間も体中が隆起して肉塊が落ちていき魔物となって襲い掛かる。


「ですのでバニス様自ら手を加えたのです、彼の支えとなっていたであろうものにをして、それでもなお自我を損なわなかったのは私でも驚きましたわ」


セラが魔術を展開する、数千の氷の針を風に乗せて迫る大蝙蝠の群れを落とし、ハイオーク達を串刺しにする。


「…ゼルシドさんがああなったのは貴方達の仕業という事?ゼルシドさんに闇魔術で精神に介入して洗脳を?」


「洗脳などと言わないでくださいませ、私達の同胞となる為の洗礼ですわ」


けらけらと笑いながらアステラは語る、だが次の瞬間には一瞬で顔をしかめた。


「だというのに…これはどういう事でしょうか?」


その視線は隔たれた壁の向こうへと向いていた…。

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