30:悔恨と迷い


「これがゼルシド君と私達の間に起きた事です」


ライブスがふう、と息をついて語り終える、レイルとセラは語られた真実に思わず閉口してしまった。


特にレイルは師匠であるゼルシドの過去は眩暈を起こしてしまいそうなほど衝撃的なものだった、かつて自分に剣を教え道を示してくれた人の過去はよりレイルの心をざわめかした。


「儂は何も為せなかった…」


ぽつりとウェルク王が呟く事でレイルはそちらに目を向けるとウェルク王は顔を手で覆って俯いていた。


「愚かだとしても父であった、思いさえ通じれば改心してくれるのではと己に言い聞かして自らの手を血で染める事を躊躇った…その結果が儂が為さねばならなかった事をゼルシドに押しつける形となった」


そこにあるのは王としての姿はなかった、己の過去の未熟さと罪を悔いるただの人の言葉を溢してウェルク王は涙を流していた。


「すまぬ、ゼルシド…」


その一言に全ての悔恨が詰められていた…。






―――――


再び日が沈んで月が浮かんだ夜。


レイルは城の中庭にて浮かぶ月を見上げていた、気分転換になればとも思って出てみたが効果はなかった。


師匠であるゼルシドの過去、そして敵として立ちはだかった事、何よりも自分の記憶にある厳しくも剣を教えてくれた事実が時間が経った今も答えを出す事を躊躇わせた。


「レイル」


呼び声に振り向くとセラがいた、月の光で髪を輝かせながらレイルを見る姿は息を呑むほど美しかった、場違いだと自覚してすぐに思考を切り替えて答える。


「どうした?」


「姿が見えなかったから探してた、邪魔だった?」


「…いや」


そのまま月が昇る空を見上げる、セラもレイルに倣う様に傍に立って空を見上げた。


「…少し聞いてくれるか?師匠の事について」


「…ん」


それからレイルはぽつりぽつりと話した、ゼルシドに故郷の村の中で唯一弟子だと認められた事、自分に最強の剣士という道を示してくれた事、自分が故郷を出る少し前に消息を絶って今日再会した事を…。


セラはそれを静かに聞き、時に質問をして時には自分の事を話す事で途切れる事なく話は続いた。


「わからないんだ」


そうして話す内にレイルはぽつりと心の内を呟いた。


「師匠は俺に剣を教えてくれた恩人で自棄になった時に新しい生き方をくれた人なんだ、だから…」


己の弱さを恥じ入る様にレイルは俯いた。


「このまま師匠と戦っていいのかわからない…裏切られる痛みを知ってるからこそ師匠と戦うのが正しい事なのかわからないんだ」


「…」


少しの間だけ静寂が辺りを包む、するとセラはレイルの前に立つと杖で頭を小突いた。


「?」


行動の意味が分からず頭を上げるとセラは静かに問い掛けた。


「レイル、今ゼルシドさんがやってるのは良い事?悪い事?」


「…悪い事だろうな」


「だったら迷う必要なんてない」


セラは静かに、だが強い意志の込もった声で告げた。


「難しく考えるからわからなくなる、なら簡単に考えてみれば良い」


「簡単に…?」


「ゼルシドさんはレイルの大切な人で今悪い事をしてる、だったらレイルがやる事は決まってる」


「悪い事をしてるなら止めるだけ、大切な人だからこそ間違っていたら体を張ってでも止めてあげるのが私達のやるべき事だと思う」


静かな決意を込めた声でセラはレイルに問い掛けた。

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