29:かつての禍根
「私も、ですか?」
セラがそう聞くとライブスはこくりと頷いて向き直る。
「えぇ、レイル君のパーティーである君も無関係とは言えませんしねぇ、長くなりますが聞いて貰えますかな?」
レイルとセラは頷くと席につく、それを見たライブスはゆっくり息を吐いて昔を思い出す様に顔を上げて語り出した。
「ゼルシド・アーレウスという名は君達も聞いた事があると思います」
「はい、五英傑の一人であり魔王を討伐した“
「えぇ、ですが彼は親しい者には愛称でゼドと名を略して呼ばれていました」
「それは…」
「えぇ、君の師匠をしていた時はその名を使っていたのでしょうな」
私達の名は広まってしまいましたからね、と苦笑しながらライブスは呟くと少しだけ影を落として話す。
「私達は親友でした、40年前のあの時までは…」
―――――
人魔大戦に於いて劣勢を覆し、人類に希望をもたらした五人の英雄は五英傑の名と共に語られる。
されど戦争は苛烈を極めた、五英傑の一人であるクシナは魔王に与した
過酷な戦いの果てに手にした勝利に人々は歓喜の声を上げた、その裏でゼルシドによる血塗られた惨劇が起こされた事も知らぬままに…。
―――――
当時のウェルク王国の中枢は腐り果てていた、交易の中継地としての重要性やダンジョンがもたらす資源と利益はウェルク王国を長く繁栄させる礎となった。
だが長き繁栄は王族や貴族の精神の腐敗をもたらした、現王フリックの父である先王をはじめとした貴族の半数は私欲の限りを尽くし、人魔大戦が起きた際には己の領地を捨てて我先にと王城に引きこもったのだ。
そして魔王が討たれ、その報告の為に城に向かったゼルシドに王と貴族達は言い放ったのだ。
“貴様にもう用はない”
“功績は我等が上手く使ってやる、我等の力になれた事をありがたく思うが良い”
“青い血を持つ我等の為に働くのは当然の事だ、身の程を弁えろ”
王城に引きこもっていた王と貴族達の心の底からの言葉だった、長らく腐敗し続けた結果人は自分達が好きに使って良いのだというふざけた思考が出来上がっていた。
「そうかよ…」
ゼルシドは一言溢すと剣を抜いて王の手足を斬り落とした、痛みに喚く王と状況に気付いた貴族達はゼルシドを罵倒するがゼルシドが剣を振るって跳び続ける内にそれは命乞いと悲鳴へと変わっていった。
王城ではしばらく苦悶の声が響き渡り、それが止んだ時の謁見の間は地獄と化していた。
貴族達は皆逃げられぬ様に足を斬り落とされ、ある者は腹から溢れる臓物を抑えながら、ある者は全身を斬り刻まれて血塗れになって死んでいた、共通しているのは皆恐怖に歪んだ顔で死んでいた事だろう。
そして王は玉座であらゆるものが
教会への報告と治療を終えたライブスとフラウが王城に辿り着いた時には全てが終わっていた、その後はゼルシドが来る前に先王に反発した事で地下牢に閉じ込められていたフリックと共に対処に追われながらもゼルシドを探した。
だがゼルシドを見つける事は出来ず、フリックとライブスは先王と貴族達に変わって国を支えなければならなかった。
先王達の死後、王座についたフリックとライブス、そしてまともであった残った貴族達の尽力によってウェルク王国は存続した。
ゼルシドが起こした惨劇は当事者達の間で口を塞ぎ、人々に伝わる事なく闇に葬られた…。
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