28:方針


「奴等を見つける算段がついたのは良いですが…」


エリファスはそう言うと顔をしかめながらも言い淀むと意を決して発言する。


「制裁の奇跡と救済の奇跡、このふたつをどうやって対処するかが問題でしょう」


奇跡の能力に関してですがと言いながら手元の資料に目を落として報告を上げていく。


「まず救済の奇跡ですが昨夜の戦闘によって魔物を操るだけでなく自らの肉体を魔物へと変容及び変身できるものだと分かりました、それに加えて不死身に近い再生能力を持つのも確認されています」


告げられた情報だけで並の冒険者ならば逃げ出すだろうが報告はそれだけでは終わらない。


「次に制裁の奇跡ですがこちらは救済の様な特異な能力はありません、ですが強さに関しては救済と比べて遜色ないでしょう」


「…これに加えて奴等が従える魔物を相手にしなければならん訳か」


将軍の言葉に部屋の中に沈黙が流れる、それも当然と言えた。


一人でさえ強大な奇跡が二人、その強さと厄介さを直接戦ったからこそこの場にいる者達はその難解さを理解していた。


「…救済の奇跡に関しては私に任して欲しい」


セラが赴ろに発言する、全員が視線を向けるとゆっくりと話し始めた。


「能力を考えても救済を相手にレイルや将軍の様な剣士は相性が悪い、それに昨日戦ってあの再生の対処に関しても策はある」


「本当ですか?」


エリファスの問いにセラは頷いて答える。


「昨日の戦いで何度か氷で拘束した時に自分の腕を切り落としたり炎の魔術で自分を燃やして脱出していた、でもそれは言い換えれば完全に拘束されるのを恐れたとも取れる」


「そうね、それにあの変容と再生も無限に出来る訳ではないと思うわ」


「だから最初から倒すのではなく封じ込めるのであればやり様はある」


「…ならば制裁の奇跡は」


「俺が引き受けます」


ゾルガが聞こうとしたのをレイルが遮る様に発言する、立ち上がって続けた。


「あれは、あの人だけは俺がやらなきゃいけない、だからやらせてほしい」


「…確かに現状では制裁の奇跡を相手にできるのはレイル殿くらいでしょうね」


エリファスが呟く様に言葉を口にする。


「私も万全ではありませんし、教皇様と将軍は防備の面でも王都を離れるのはまずいです、他の冒険者達もこちらが動くまでに召集が間に合うとは思えませんが…」


「大丈夫なのですかな?」


ライブスがレイルに向けて問いかける、その目にはどこか無茶を諌めるかの様だった。


「…やらなきゃ先はありませんから」


僅かな沈黙の後にレイルはそう答えた…。







―――――


「レイル君、それとセラ君もよろしいでしょうか」


方針を決めた一同は各自解散となりレイル達も部屋を出ようとした所でライブスに声を掛けられる、振り向けばウェルク王も残ってこちらを見ていた。


「…なんでしょうか?」


「…君には話しておくべきだと思いましてね」


ライブスはそう前置きをすると静かに言葉を紡いだ。


「君に師匠であるゼド…ゼルシド・アーレウスと我等の間に起きた事を…」

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