27:状況


「う…」


レイルが目を覚ますとそこは王城の一室だった、体を起こして状態を確認すると踏み潰された足は元通りになっている。


(あの時の竜の力か…)


ゼルシドと戦い、竜の力が再び目覚めた今度は意識があった、その時に負った傷が凄まじい速度で塞がり治っていく感覚を今でも覚えている。


それと同時に凄まじい破壊衝動とでも言うべきものがレイルを襲った、衝動のままに戦った感覚が体に刻み込まれていた。


(制御できる様になっておけや)


ゼルシドから言われた言葉が頭に響いて歯を食い縛る。


自分ですら無様だと思える戦い方をしてしまったとは分かっていた、あの時竜の力が目覚めなければ間違いなくレイルは殺されていただろう。


「なんで…」


ぼそりと呟いて天井を見上げる、自らの道を示した師が奇跡となって立ちはだかった事はレイルの心を揺らがせ迷いを生んだ。


そして生まれた迷いは今なおレイルの中に根づいていた…。


カチャリと音を立てて戸が開かれる、視線をそちらにやるとセラがレイルを見て駆け寄ってきた。


「良かった、体は大丈夫?」


「あぁ…どれぐらい寝てしまってたんだ?」


「あの二人が逃げてから五時間くらい…まだ午前を越えてない」


「そうか…」


会話が途切れるとセラは教皇様を呼んでくるからと言い残して部屋を後にする、残されたレイルは再び思考に沈んでいく。


(斬らなきゃいけないのか、師匠を…)


ライブスとセラが来るまで続いた思考に答えが出る事はなかった…。





―――――


ライブスの診察を受けた後、レイル達はウェルク王をはじめとして部屋に集まっていた、謁見の間は戦闘の余波で機密性もなにもないほど壊れてしまったので比較的損壊を免れ防音性の高い部屋に集まっている。


「まず状況の説明からですが」


宰相であるグリモアが音頭を取って報告を上げる、その顔には疲労が色濃く浮かんでいたが毅然とした態度を保っている。


「城下に関してですが今回の襲撃で城壁の一角をはじめとして城下に潜伏していたバニス教団員によって兵士の死者が34人、重傷者が76人といった所であり、現在街の治安維持はかねてより案に上がっていた自警団と冒険者によって行ってもらっています」


「城下はひとまず問題ないという事か」


「はい、問題はやはり王城に保管されていた三巨人の心臓のひとつが盗まれた事の方が重要です」


「三巨人…」


ぼそりと呟いたレイルに頷いたグリモアは説明を続ける。


「神代の時よりこの地に封じられていたものです、この王城もその封印の祠を覆う様に建てられていますがそのひとつが破壊されていました」


「他の封印は大丈夫だったのですかな?」


「はい、ですが問題はここからです」


「何?」


「当時の文献や伝承を調べましたが奪われた心臓の巨人の名はヴクブ・カキシュ、残る二体の巨人の父であり、その目覚めと共に息子達も姿を現したとあります」


「では…」


「ヴクブ・カキシュが蘇った場合、残るふたつの封印が解ける可能性は否定できません」


告げられた内容に沈黙が下りる、すると体の至るところに包帯を巻いたエリファスが挙手する。


「といってもそれは封印が解けたらの話ですよね?ならば奴等が甦らせる前にこちらから攻めれば良いのでは?」


「しかし奴等の消息が…」


「調べる範囲を絞る事は出来ると思いますよ」


エリファスはそう言うと机に置かれた資料を取る、それを見ながら口を開いた。


「伝承によるとヴクブ・カキシュは大いなる大地から成されし体を持つ者、言ってしまえば土属性の魔物でしょう」


「えぇ、それが…っ!」


グリモアがなにかに気付いた表情をするとエリファスは頷きながら答える。


「奴等は相応の準備と場所が必要だというのが真実なら少なくとも場所は限られましょう」


そう言ってエリファスは地図を広げると幾つかの地点に点を付けていく。


「土の魔力が集まる場所で奴等が安心して準備できるとしたら、一番可能性があるのはダンジョンではないですかね?」

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