31:先生


「悪い事をしたら、止める…」


レイルはセラから言われた言葉を反芻する、少しして自嘲の笑みを浮かべながら息を吐いた。


確かに言う通りだと思ってしまった、過去に何があろうと師匠は師匠で今止めなければ更に多くの命を奪ってしまうだろう。


師匠にそんな事はさせたくない、なら自分が止めなくて、戦わなくてどうすると言うのだ。


「ありがとな、セラ」


礼を告げて顔を上げる、その眼にはもう迷いの光はなかった。


「…もう大丈夫?」


「あぁ、師匠を止めるよ、ぶん殴ってでもな」


レイルの答えにセラは思わずくすりと微笑んでしまった。






―――――


「眩しいですなぁ…」


中庭にいるレイルとセラを見守っていたライブスは眼を細めながら呟く。


「些か心配しておりましたが大丈夫な様ですな…しかしこんな巡り合わせがあるものなのですねぇ」


ライブスはその場から離れながら思案する、あの二人が共にあるのは偶然なのか必然なのかどちらにせよ運命の様に思えたからだ。


「“子を成し託す故に我等は永遠なり”、しかしまだ託すには些か荷が重すぎますねぇ…」


教会へと戻りながら考えるのはレイルの竜の血の事だ、セラに相談を受けたが肉体と同化している竜の血のみを封じるとなるとライブスを以てしても相応の準備と時間が必要であり今はその余裕がない。


「となると…やはり彼女に頼むのが一番ですねぇ、幸い呼ぶ方法は見つかりましたし」


そう言うライブスはどこか人の悪い笑みを浮かべていた。





―――――


翌日、レイルとセラはライブスに呼ばれて王都近くの丘に来ていた。


「すみませんねぇ、こんな所にまで」


「それは構いませんがどうしてここに?」


「そうですな、ひとえに君の竜の血に関するからと言えますねぇ」


「手立てがあるんですか!?」


セラが前のめりになって問い掛ける、ライブスは落ち着く様にと手振りで示すとゆっくりと語り出す。


「まず言って置かねばなりませんが私では竜の血を封印を施すのは今は出来ません、私が行うには相応の準備と時間が必要だからです」


「…そうですか」


「ですので出来る者を呼ぼうと思います」


ライブスの言葉にレイルとセラは思わず顔を見合わせてしまう、それだけ言われた事は信じがたいものだった。


「呼ぶ?」


「えぇ、ただ私の予想だと王都で呼ぶのは少々問題が起こりそうなので二人にここに来てもらったのです」


ライブスは懐から魔石と精緻な装飾が施されたメダリオンを取り出す、魔力を込めると魔石に光が灯ってやがて声が聞こえてきた。


“ライブス?久しぶりってか珍しいじゃないアンタから掛けてくるなんて”


「…え?今の声って」


メダリオンから発せられた声にセラが呟く、ライブスは気にせずメダリオンに向かって話し掛けた。


「お久しぶりですねぇ、実は君の愛弟子の事なのですが…」


“あら、私の素晴らしい弟子の話が聞きたいの?良いわよなんなら夜通し…”


「えぇ、おそらく君の弟子であろう子が隷属の輪を掛けられて私の前にいるのですが…」


バキッ


メダリオンから何かが砕ける音がして途切れる、それから少ししてレイルは空から気配を察知して顔を上げた。


空に流星の様な光が走っている、それは閃光と轟音と共にレイル達から少し離れた場所へと落ちた。


光が止むとそこには一人の少女が立っていた、腰まで届く髪は日に照らされて王冠の様に輝く金色でこちらを睨みつける蒼い瞳を携えた顔は男女問わず見惚れてしまうほど整っている。


背丈はセラよりも更に低いが身を焔の様に溢れ出る魔力が怒気と共に放たれており容姿と相まって強大な威圧感を放っていた。


「先生!?」


「…久しぶりね、セラ」


セラに向けて少女は静かに答えた…。

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