10:渾名


竜殺しドラゴンスレイヤー…?」


聞き慣れない呼ばれ方に思わず聞き返すとエリファスは人の良い笑顔を浮かべた。


「えぇ、お噂はかねがね聞いております、一人でドラゴンの討伐に始まり。フォルトナールでは古竜エンシェントドラゴンが眠るとされたダンジョンの踏破に先日の魔物の暴走群スタンピードの鎮圧にも貢献なされたとか」


流水の様にエリファスはレイルの功績を並べ立てていく、まるで誰かに知らしめる様に…。


「更には陛下直々にお褒めの言葉と褒美を得た上に指名依頼をされたと聞き及んでいます、これは確定ではありませんが冒険者ギルドでは貴方を黄金級に昇格させるべきだという声が上がっていると冒険者の中でも“竜殺し”の名と一緒に有名になっていますよ?」


それを聞いて少し驚く、白銀級と違い黄金級冒険者とは生半可な事では昇格できないというのが一般的だ。


なにせ黄金級冒険者とは国家規模の案件を任される事もあり、有事の際に与えられる権力は下手な貴族より上になる事もある。


分かりやすく言えば領地を持たない一代限りの貴族になる様なものであり、それ故にどこの国であろうと黄金級に昇格するには相応の実績と国からの評価が必要になる。


自分がそれになるなど言われても実感が湧かないと言うのがレイルの率直な感想だった。


「そんな貴方に無礼を働くのは貴方に城への滞在並びに練兵場の使用許可を出された将軍、引いては陛下に無礼を働いたと言っても過言ではありません、バルグリド郷の子息であろうと反逆の意思ありとして死罪となってもおかしくないでしょう」


エリファスはちらりと男に視線を向ける、笑みを絶やす事はないがその眼は笑ってはいなかった。


対して男は俯いたままガタガタと体を震わせている、自分が何をしたかを理解して今更ながら状況を把握したらしい。


その様子を見たレイルはもはや馬鹿馬鹿しくなって頭を横に振るった。


「別に傷を負った訳でもない、そこまでしなくとも良い」


「ふむ、でしたら罰はこちらの裁量で決めても良いでしょうか?二度とこんな事にならない様に教育致しますので」


「好きにしてくれ」


レイルがそう言うとエリファスは兵士達に男を独房に連れていく様に命ずる、すれ違い様に何かを言おうとしてるらしく身体強化で聴力を強化する。


“ようやく尻尾を出したじゃないか、君がここではバルグリド卿の子息ではなく一兵卒である事をじっくり叩き込んであげよう”


そう言われた男はびくりと体を震わせながら連行されていく、その一連を見聞きしてレイルはエリファスが見た目通りの男ではないと理解した。


「部下が無礼を働き申し訳ない」


ゾルガ将軍に声を掛けられたレイルはそちらに向き直ると首を横に振る。


「お気になさらず、将軍に非はありませんから」


「部下の失態は私の失態だ、鍛練の邪魔をした詫びも含めて謝りたいがなにかあるだろうか?」


「そうですね…であれば模擬戦の相手が欲しい所ですが」


やはり鈍った体を叩き治すには実戦に近いものの方が好ましい、なので相手が欲しい所だが周囲の兵士達は萎縮してるのか難しそうだ。


「ふむ、であれば…」


将軍はそう言ってレイルににやりと笑いながら言葉を続ける。


「私が相手になろう、少なくとも一兵士に遅れは取らんぞ?」

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