9:副将
振り下ろされた拳は身体強化も伴っていたが…。
(遅いな…)
振り下ろされる拳を見切って最小の動きで回避する、動きからして拳闘術士や格闘術士辺りだと分かるが脅威だとは微塵も認識出来なかった。
「…手加減してるのか?」
「…っ!たりめぇだ!てめぇ如きに本気なんぞ必要あるか!」
「戦いでそんな事言ってたら今お前は五、六回死んでるが…」
「てめぇぇぇぇぇっ!?」
先程よりも多くの魔力を込められた一撃がレイルに向けて放たれるが…。
(少しは運動になるかと思ったが…)
ふらりと流れる様に避けると僅かに魔力を込めて前蹴りを腹に放つ。
「げふっ!?」
カエルの様な声を上げて男はごろごろと地面を転がる、ギロリとこちらを睨んでくるが倒れながら腹を押さえてる状態でされても恐ろしくはなかった。
「てめぇ…、俺はバルグリド家の息子だぞ!?こんな事してただで済むと思ってんのか!?」
「いや、知らないが」
「ふざけんな!西の砦たるフォルトナールを治める領主の名すら知らねぇのか!?てめぇの人生台無しにだってできんだぞ!?」
レイルはそれを聞いて思い出す、あの荒くれ者が集まるフォルトナールを治めてるのが確かバルグリド家という貴族だった、確か領主自身も相応の実力を求められる家だとギルドで聞いた覚えがあるが…。
「…はぁ」
「はっ、今更自分がなにやったかに気付いたか!?」
「…国の兵士が親離れできてない奴にも勤まるんだなと思っただけだ」
「―――っ!!!」
もはや声にならない声を上げて男が立ち上がろうとした瞬間…。
「何事だ」
厳格な声が響いてその場にいた者達の視線が声の主に集まる。
「しょ、将軍!」
声の主、ゾルガはレイルを見て声を掛ける。
「ここにいるという事は鍛練か?レイル」
「はい、少しではありますが体が鈍ってしまったので」
「ふむ、それは分かったが…もしや部下が何か失礼をしたのか?」
ゾルガが鋭い目を向けると男はびくりと体を震わせると慌てて口を開いた。
「しょ、将軍!私は模擬戦の相手を申し出ただけで失礼などは…」
「いやー思いっきりしてましたよ、それこそ国の威信に泥を叩きつける様な行いをね」
男が言い募ろうとした瞬間、場違いとすら思える一声がそれを遮る。
見れば成り行きを見守っていた兵士達から一人が出てきていた。
「魔力なしだとかガキだとかしまいにはイチャモンつけて殴り掛かって返り討ちにされたら実家の権力を振り回す、おおよそ兵士どころか人としてどうなのかって聞きたいくらいですねぇ」
「てめぇ、ふざけた事を…」
将軍が一睨みして黙らせると将軍はため息をついて向き直る。
「まさかこの為に使い魔まで送って私を呼んだのか?エリファス」
「あ、やっぱり将軍にはバレちゃいました?」
その言葉と共に姿が
レイルより2~3ほど年上の印象を持った青年はレイルに向けて頭を下げる。
「こうして直接会うのは初めてなのでご挨拶をば、王国兵軍副将を勤めていますエリファス・シトラと申します。
“
どこかもったいつける様な言い回しをして青年、エリファスはそう名乗った…。
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