8:鍛練


王城にある練兵場、本来であれば多くの兵士達が模擬戦をしたり陣形の訓練を行うなどで賑やかなのだが今だけは違っていた。


練兵場の中央に本来なら多くの兵士が鍛練の為に所狭しといるのだが今は兵士達は壁際に立って呆然としながらたった二人が剣戟の音を響かせながら戦っているのを見ていた。


一人は魔力の灯火を眼に宿らせながら剣を構えるレイルが、そしてもう一人は全身に風を纏って長剣バスタードソードを構えるゾルガ・ヴォルフが向き合っていた…。






―――――


「昨日はお楽しみでしたねぇ」


セラと思いを通じ合った翌日、ニヤニヤしたシャルに開口一番にそう言われたレイルとセラはなんで知ってるのかとか自分達がしてた事が既にバレてる事に対する羞恥などで面食らってしまっていた。


「盗み聞きする気はなかったんだけどねぇ、知っちゃったからには二人の催しに邪魔が入らない様にしてたのよ、ここ王城だからね?」


その指摘に思わずレイルは顔を覆う、セラに至っては顔を俯かせてはいるが耳まで真っ赤に染まっていた。


ほぼ一日中部屋に二人で籠っていたのに侍従や誰かが来なかったのは疑問に思っていたがどうやらシャルが気を利かせてくれたのだと分かったレイルは自身の至らなさやシャルへの複雑な気持ちにため息をつく。


「…とりあえず気を利かせてくれた事には感謝する」


「あははは、良いのよ~、私としては今みたいなセラちゃんの可愛い所が見れたからね」


「…話は変わるが鍛練場みたいな所はないか?」


…終始ニヤニヤしているシャルにイラッとするが世話になった手前なにもできないレイルは話題の転換の為にそう切り出した。


「鍛練場?」


「ここ数日剣を振れてないからな、体の鈍りを取る為にも体を動かしたいんだ」


「そういう事なら練兵場に行くと良いわ、今は非番の兵士達がいるくらいだから場所は空いてるだろうし、将軍からも使って良いって了承はあるしね」


それを聞いたレイルはセラと一緒に向かおうとするがシャルがセラに後ろから抱きついて止める。


「シャルさん?」


「ごめんね、ちょっと女の子同士で話したいからセラちゃん貸してくれない?」


「セラが良いなら構わないが…」


レイルはそう言って二人を見るとシャルはセラにボソボソと耳打ちする、するとセラはより顔を朱に染めて頷いた。


「…レイル、ちょっとシャルさんと話してくる」


「分かった」


「ん、また後で」


そう言ってセラはシャルを押す様に歩いていく、それを見送ってレイルは練兵場に向かった。





―――――


練兵場にはちらほらと模擬戦をしたりなどしている兵士達が居り、入ってきたレイルに対して好奇の視線を向けていた。


視線をさして気にせず空いていた一角に向かってそこで剣を振るう事にする。


(やっぱり鈍っているな)


幾度か素振りをして自分の体を再認識しているとずかずかと足音を立てて大柄な兵士がレイルに近付いてきた。


「見ねぇ顔だがここがどこだか分かってんのか?」


「練兵場だろう」


「分かってんならなんで部外者がいんだ?」


「将軍から許可は得ている」


「ハッ!将軍が貴様の様な魔力なしに許可を与える訳ないだろう!」


魔力はないんじゃなくて抑えてるだけで良く観察するば分かると思うのだがどうやらこの男には分からないらしい。


「…王国の兵士はこの程度なのか」


「…っ!てめぇ!?」


心の中で思った事が出てしまったらしい、今にも血管が切れそうなほど顔を歪めた男はぶるぶると拳を震わせて怒鳴る。


「ガキが!その嘗めた口閉じさせてやらぁっ!!」


そう言ってレイルに殴り掛かってきた…。

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