3章:先達と後継

1:謁見前


レイルがけじめをつけてから翌日…。


セラの口づけの感触を忘れられないレイルは中々寝つけず眠りが浅いまま目を覚ました。


“次はレイルからしてくれると嬉しい”


去り際に言われた言葉を思い出すと頬が熱くなる、ここまでされて想いに気づかぬ程レイルは朴念仁でもなかった。


(俺も…)


レイルとてセラを好きかと問われたら迷いなく頷くだろう、あれほど自分を想って支えてくれた初めての人なのだから。


(だが…)


バスチールとの戦いから目覚めて以降レイルは自身の中にある竜の血が認識できる様になった、それと同時にが高まっているのも自覚していた。


以前よりも本能を堪え難くなった事は否応なしに竜の血が強まっている事をレイルに突きつける。


(今セラを求めたら…)


おそらく自分は我慢できないだろう、少なくともそれぐらいにはセラを好いているし欲している。


同時に自分の手で傷つけたくないとも思う、それぐらいセラを大切だとも想っているのだ。


(話し合うべきだな…)


以前は一人で考えてリリアとああなった、自分だけで考えるのではなく例え嫌われたとしてもセラと話し合うべきだろう。


そう結論を出したレイルは身支度を整えて部屋を出ようとするとドアがノックされる、返事をすると侍従が用件を話す。


「朝食の用意が出来ました、その後陛下への謁見がございますのでお早めにお越し下さいませ」


昨日シャルに言われた事を今思い出した。







―――――


「あ、レイル君おはよ」


朝食を摂る為に食堂(兵士が使う一般的なものではなく王族が利用する方)へ向かうと既にシャルが朝食を摂っていた。


「おはよう、それで…」


ふと気づいて辺りを見周しながらもう一人がいない事を確認する。


「セラは?」


「食事終えて戻っちゃったわ、なんかいつもより喋らないでそわそわしてたのよね…」


「…そうか」


席について出された料理を口に運んでいく、今まで利用してきた宿や飯屋とは違う美味さに少しだけ感銘を受けながらスープを口につける。


「…セラちゃんと一線越えた?」


「ごふっ!?」


突然の問いに思わずむせてスープを吹き出しかける、慌ててコップの水を飲み干して一息つく。


「え?本当に越えたの!?」


「まだ越えてない!」


!?」


「言葉の綾だ!!」


このままだと激しく誤解されると思い、昨日あった事を説明する、ひとまず竜の血に関しては出来るだけ伏せながらレイル自身の胸中を明かした。


「わぁ、セラちゃんたら大胆ねぇ…」


「そういう訳で一線は越えてない」


「いやもう越えて良いんじゃない?他ならぬセラちゃんから誘ってきてるんだし」


「歯止めが効かなくなる」


「まぁセラちゃん普通に綺麗だし可愛いしねぇ…そんな子相手に我慢できる男がどれだけいるのやら」


「…楽しんでないか?」


「とっても」


良い笑顔で答えられたレイルは思わず拳を握るがぐっと堪える、なんとなく殴ったら負けな気がしたからだ。


「まぁ話し合うのは良い事よ、黙ってたって察するなんてしてもらえないし伝わらないんだから」


「…そうだな」


「それも謁見が終わってからだけどね」


そう言って居住まいを正すとシャルは先程とは違った空気で話し出した。


「レイル君、竜の血が宿ってるのよね?」


「…」


「君を治療した教皇様が言ってたのよ」


…確かに自分が目を覚ました時血の事を言っていた、あの時点で気づかれていたとレイルは思い至る。


「あぁ…」


「今回の謁見で間違いなくそれを聞かれるわ、少なくとも宰相様は君に対して疑いの目を持ってる」


「疑い?」


「君の力と教団が関わりがあるんじゃないかって」


「そんな訳…」


否定したくなったが堪える、シャルに言っても仕方ない事だし他人からすれば竜の力と奇跡の力の見分けなどつかないというのも感情を抜きにすれば納得は出来る。


「君が無関係だと証拠でもあれば宰相様も納得してくれると思うのだけど…」


「…俺が無関係だと言っても疑われるだけじゃないか?」


「そうよねぇ…せめて竜の血の出所を証明できれば後はなんとかなる気がするのだけど」


と言ってもあの時はレイル一人だけで証明する事など出来ない、と考えて思い出す。


「…証明できるかも知れない」


「え?本当に?」


「証拠というか証人?になるが」


そう言いながらレイルは腰に差した剣に視線を向けた。

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