閑話:王達の会議2


時はレイルがまだ眠りについてる頃…。


明かりを消した部屋の中央に置かれた魔導具の水晶から映像が浮かび上がる、そこには音はないがレイルとバスチールの戦いの一部始終が映っており、レイルが魔術を発動した所で途絶える。


「…以上が使い魔の記録になります」


その言葉と共に部屋に明かりがつけられる、そこには国の重鎮の四人とシャルがいた。


「…凄まじいな」


「他の奇跡達もこれと同格の強さと異能を有してるとなると並の兵や冒険者をあてがった所で無駄死にするだけだな…」


「…奇跡に関しては予測が確証に変わっただけです、私としては」


宰相であるグリモアが顎に手を添えながら続ける。


「その戒めの奇跡を討伐した剣士レイル、彼がバニス教団の回し者である可能性を捨てきれませんね」


グリモアは目を鋭くしながら語る。


「あの異常とも言える魔力操作に剣士でありながら他の大魔術と同じ規模の魔術の行使、極めつけはあれだけの攻撃を受けて死なないどころか奇跡を圧倒するほどの生命力と戦闘力」


つらつらと並べ立てられるのはレイルの異常さだった、単純な戦闘力だけならレイルは既に白銀級などとうに超えているとこの場にいる誰もが把握していた。


「もはや人の域を越えています、あれほどの力に教団が関わってないとは言い切れないのでは?」


「その可能性はほとんどないでしょう」


グリモアの懸念をシャルが否定するとゾルガが問う。


「なにか確証があるのか?シャルロッテ」


「まずはこちらを」


そう言って卓上にレイルの冒険者としての記録とフォルトナールと王都でのバニス教団の動きがまとめられた資料が置かれる。


「まず前提として教団の目的ですが彼らは自分達の仲間を増やす事が主目的だと思われます」


「仲間を増やす?」


「えぇ、フォルトナールの侵攻や王都周りの魔物の増加はその副産物と言えるでしょう」


「根拠はあるのか?」


ウェルク王の問いかけにシャルは首肯する。


「フォルトナールでは救済の奇跡が魔術士のセラに勧誘を掛け、断られたら殺してその遺体を持ち帰る様に画策、王都では戒めの奇跡が救出された女性を拉致する際に戦った冒険者が“逸材”や“同胞と成りうる”という発言を聞いたそうです」


シャルはそう言うと資料の一枚を出す。


「そしてその両方を阻止したのがレイルです」


「…」


「確認された二人の奇跡は手段は違えど仲間を増やすという目的は共通していました、そしてどちらもレイルが阻止しなければ達成されていたでしょう」


「ふむ…」


「こちらを欺く為にというにはあちらのデメリットが大き過ぎます、彼が奇跡を討った時点で彼が教団とは敵対者ではあれど手先ではないでしょう」


「…しかしあの力は」


「私も彼は潔白だと思いますよ」


そう声をあげたライブス教皇に視線が集まる。


「治療と平行して彼の体を調べてみたのですが彼には竜の血が流れています」


「竜の血!?」


「えぇ、私も最初は驚きましたがこれを知って納得しました」


そう言って机の資料からレイルの記録を取り出す、“天竜てんりゅう封窟ほうくつ”を攻略した記録だった。


「彼はこのダンジョンで古竜エンシェントドラゴンを倒したそうです、その際にその血を浴びるないしは取り込んだのでしょう、彼の力の一端はそれですね」


「…竜の血を取り込むなど有り得るのですか?」


「若い個体ならともかく古竜エンシェントドラゴンの血となればないとは言い切れないでしょう、古代の英雄にも竜の血を浴びて不死身になった者が語られてますしね」


ライブスの発言にグリモアは黙り込む、これだけの情報と他ならぬ教皇の一言は疑念を仕舞うには充分だった。


それでも危険性がなくなった訳ではないが…。


「とりあえず彼を変に疑って不和を生むより懐柔した方が良いのでは?どのみち彼を呼ぶ事になるでしょうし彼に関してはその時にでも聞けば良いかと」


「うむ」


ライブスの言葉にウェルク王が頷くと口を開く。


「剣士レイルが奇跡を討ちバニス教団の企みと更なる犠牲を止めたのは事実、これに関しては報いなければなるまい」


そう言ってシャルに目を向ける。


「ひとまずは彼の者と話してからとしよう、シャルロッテ・ヴィーダル、お主は引き続き秘密裏にレイルの監視を続けよ」


「仰せのままに」


その言葉を最後に解散となった。






―――――


「はぁ、相変わらず宰相閣下は心配性だわ」


一人になったシャルは肩の力を抜いて息を吐く。


「まぁ、あれくらい用心深くなければ宰相なんて務まらないでしょうけど…」


変革があったと言えど三十代という若さで宰相になるなど並の事ではない、彼を納得させるだけの証拠集めに奔走してもまだ不安はあったが教皇の後押しが効いた様だった。


「それにしても…」


何故教皇がレイルを擁護したのだろうか?そんな疑問がシャルの頭に浮かぶ。


直接関わったシャルはともかくレイルの人となりを知らない者がレイルの力を知れば大概は警戒すると思うが…。


いくら考えても答えは出なかった…。






―――――


部屋にウェルク王とライブスが座っている、見ているのは先程のレイルの映像だ。


「…ライブス、彼を見てどう思う?」


「君と同じだと思うよ、フリック」


長年親しんだ友の名を呼びながら答える、それを聞いてウェルク王は懐かしさを感じている様な声で呟く。


「やはり似ているな、ゼドの戦い方と…」


ゼド、とはウェルク王の友の愛称だった。


本来の名はゼルシド・アーレウス


五英傑の一人であり魔王にトドメを刺した“魔王殺しデモンスレイヤー”の名だった…。

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