25:戦いの後


レイルが目を覚ますと見知らぬ天井だった、体を動かすと痛みが走るが支障はないと判断して体を起こす。


「?」


右手に温もりを感じてそちらに目を向ける、セラがレイルが寝ているベッドに寄りかかる様に眠っており右手を淡く握っていた。


「傍にいてくれたのか…」


ゆっくりと右手を引き抜いてセラの頭を撫でる、撫でると少しだけ身動ぎするが起きる様子はない。


(無防備だな…)


レイルはそう思いながらもこうして傍で眠れるくらいには信頼されてる事に嬉しいという感情がある事に少し驚く。


(誰かを信頼するなんてもう出来ないと思ってたんだがな…)


「おや、目覚めた様ですね」


物思いに耽っていると穏やかな声で話し掛けられる、慌てて手を離してそちらに向くと法衣を纏った年配の男が立っていた。


穏やかな微笑みと雰囲気を持っているが見た目とは裏腹に高齢とは思えない程背はまっすぐ伸びており、魔力も今まで見てきた中で一番乱れがない。


「三日も眠っていたので心配していましたがその様子だと問題はなさそうですね」


「三日…?」


レイルがオウム返しに聞き返すと男は頷いて説明を始める。


「君はバニス教団の隠し祭壇から彼女と一緒に運ばれたんです、彼女は軽傷でしたが君は過剰発動の後遺症に加えて肉体の負荷が大きかったのもありましたから」


「そんなに…」


「彼女に礼を言っておくと良いでしょう、彼女が君の過剰発動で暴走していた魔力と血を鎮めていなければかなり危険な状態でしたからね」


それを聞いてレイルは朧気ながらも思い出す、紅く染まった視界と思考の中で自分を導いた白い影、あれは…。


「やっぱりセラだったんだな」


「あ、レイル君起きたって…」


ひょっこりとシャルが顔を出すと男を見てハッとした顔をする。


「こんな所に居られましたか、将軍が捜しておられましたよ?」


「私は彼を治療した回復術士として容態を確認しなければねぇ、如何なる身分であろうとその責務を蔑ろにするのは良くありませんから」


「フットワークの軽さも言い様ですね…」


そんな事を話して男は肩を竦めるとレイルへ向き直る。


「私はこれで失礼しますがまた後で話しましょう、君を見ていると友人を思い出して懐かしい気持ちになりますから」


そう言い残して男は部屋を出る、それを見送ったシャルはやれやれといった表情をしていた。


「シャル、あの人はただの回復術士じゃないのか?」


「え!?レイル君あの人知らないの!?」


「…法衣から高位の神官だとは思ってたが」


「えぇ…いや、まあ考えてみれば直接会う機会なんてそうはないわよね…」


シャルは一人納得したかの様に頷くと答える。


「名前くらいは聞いた事あるでしょ?ライブス・ハインリッヒ、現教皇で人魔大戦を終結させた五英傑“神の伝言ガブリエル”と呼ばれた白金級冒険者よ」


「な…」


予想以上の大物だった事に絶句するレイルは反射的にベッドを揺らしてしまう。


「ん…ふぁ」


揺れがきっかけでセラは起きると寝惚け眼でレイルを見て意識をすぐに覚醒させる。


「レイル!」


すると飛びつく様にレイルを抱き締める、さっきの驚きに突然訪れた柔らかい感触と香りが加わって更に混乱が増す。


「良かった、本当に良かった…」


涙ぐんだ声で言いながらセラはレイルを抱き締める、それを聞いてレイルはとりあえず大丈夫だと答えて頭に手を置く。


「情熱的ねぇセラちゃん」


ニマニマ、という擬音がしっくり来そうな表情で一部始終を見ていたシャルがそう言うとセラは急いで離れた。


「…いつからそこに」


「最初から」


良い笑顔で答えたシャルを見てセラは顔を紅くして俯いてしまった…。

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