14:見出だされた業(リリアside)

時はレイル達とリリアが別れた後…。


リリアは自身が勤めている治療院におぼつかない足取りでようやくたどり着いた。


この治療院は元冒険者だった院長が半ば時間を潰す為に立てたものだったが人柄もあってリリア以外にも数人の回復術士と医者が勤めていた。


「今日は宿直は私がやるからリリアさんは帰って良いですよ」


「え?」


院長からそう言われてリリアは思わずそう返す。


治療院では緊急の患者が来た場合を考慮して当番制で宿直をしており、今日はリリアが当番だった。


「なにかあったのでしょう?今日の貴方はひどく心がぶれていましたから」


「っ!?…そ、それは…」


「リリアさん自身の事ですから深くは聞きません、ですが乱れた心では回復術は本来の力を発揮できません」


回復術は対象の治癒力や生命力を高めるものだがその効果量は精神状態で決まる、今のリリアでは本来の半分の力も出せないと院長は気付いていた。


「今日は休んで心を落ち着かせなさい、回復術士はなによりも自分を大切にしないと誰かを癒せませんから」


「…はい」





―――――


治療院を出たリリアはとぼとぼと家路につく、また迷惑を掛けてしまったと思うと更に自己嫌悪に陥っていく。


そうして考えていると思い出すのは今日の事だ。


レイルが生きているのはアレッサから聞いていた、自分に会う気がない事もその時知った。


当然だろう、斬り殺したくなると言う程に怒りを向けた相手に好きこのんで会いにくる人がどこにいるというのか。


本当に会ったのは偶然であの時は会った時の心構えもなにも出来てなかった、だから威圧された時最後の言葉を思い出して殺されると思ってしまった。


けど隣にいた少女がそれを止めた、ただ名を呼び掛けただけでレイルは冷静になって彼女の手を取った。


(あの子は新しい仲間なのかな…)


綺麗な子だった、白銀の髪も雪の様に色白な肌も、なによりも自分の倍以上はあるんじゃないかという魔力を感じた。


そんな子がレイルの傍にいて、レイルは自分から手を取って行ってしまった。


(私にはもう伸ばされない手…)


レイルがあの子に向けていた眼はかつて自分にも向けられていたものだった、レイルが大切だと思ったものに向けられる優しい眼…。


“もう…関係はない”


だけどそれはもうリリアに届く事はない、自らの過ちによって伸ばされていた手を離したのだから。


これから先、レイルの傍にいるのはリリアではなくあの白銀の少女で…。


(…そんな資格、もうないのに)


頭を振って過った思考を振り払うとふと気付く。


周りに誰もいない、確かに居住区から少し外れてはいるがそれにしたって無人というのは有り得ない。


「え?」


前方から誰かが歩いてくる、目深なフードを被って両腕に鎖を巻いた男は5m程の距離で止まった。


「…ようやく見つけた」


男は口を三日月に歪めてそう呟いた。


「良い、実に良い、やはり探してみるものよな、石ころ汚泥の中にもこれ程までの玉があるとは、我が主は先見の明を持っておられる」


ぶつぶつとしゃがれた声で呟く目の前の存在に危機を感じたリリアが逃げようとすると。


すぐ横で風を裂く音がした。


一拍置いてそちらを見るとリリアのすぐ横に鎖が石畳を砕いてめり込んでいた。


「逃げる必要はない、恐れる必要はない、汝の業を濯ぐ機会を与えよう、汝ならば我等と同じ位階へと…」


男がリリアに更に近づいた瞬間…。


リリアの後ろから火球が男に向けて高速で放たれる。


男はそれを首の動きだけで避けると火球を放った相手を視界に映す。


「…妙な結界があると思って来てみたら、リリアをどうする気よアンタ?」


杖を構えたアレッサが男を鋭く睨みつけていた。

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