13:信号

「なにかあったの?」


シャルが開口一番にそう聞いたのも無理はない、レイルは耳まで紅く染まった顔を両手で覆って座りながら羞恥に震えており、隣のセラはいつもの表情ながらも色白な頬を朱に染めて座っている。


「少しな…」


「…それより神隠しの件だけど」


「…ふうん」


そう言ってセラが話題を切り出すとどこか意地の悪い笑みを浮かべながらセラの耳元に口を寄せる。


(どこまで進んだか後で教えてね?)


「っ!?」


シャルのささやきにセラは体をビクッと震わせてより一層朱に染まった、それを見たシャルは満足気な顔をすると座る。


「とりあえず将軍に話を通しておいたわ、私達はこのままこの件に関しての調査を進めて可能なら解決して欲しいけどバニス教団と繋がりがなければギルド経由で他の冒険者にさせるそうよ」


「そうか、まだ冒険者の方は調べてないんだが…」


「大丈夫、さっきギルマスと掛け合っていなくなった冒険者の資料をまとめさせておいたから」


「分かってたのか?」


「黄金級ならこれくらいはね?」


そう言って肩を竦めると資料を取り出す、レイルとセラも渡された紙に神隠しにあった一般人の情報を書き込んでおいたのを渡して互いに目を通す。


「青銅級が多いな…それも脛に傷があるやつばかりだ」


「それに魔術士に偏ってる…」


「なら条件はやはり…」


三人の視線が交わるとレイルがそれを口にする。


「魔力に優れ、なにかしらの問題を抱えた人が狙われている」





―――――


「それとこれを見てくれる?」


そう言ってシャルは懐から細長い紙を取り出してテーブルに置く、紙には見慣れない文字の様なものが書かれていた。


「これは?」


「呪符っていうものでね、エルメディアの更に東の島国で作られてるものなの。

分かりやすく言えば魔術の起動触媒とでも言うべきかしら」


「これがどうかしたのか?」


「居住区の目立たない所に貼られていたのよ、これは使われて既に魔力は残ってないけど知り合いに詳しいのがいたから見てもらってたわ」


「なにか分かったの?」


「えぇ、この呪符には人避けの結界を貼る事が出来るみたい」


「人避け?」


「程度はあるけど白銀級の冒険者や魔術士みたいな強さでないと結界内に行くのを精神に干渉して入りたくない様にする事が出来るのよ」


「精神干渉、それも闇魔術に類する魔術を使ってるという事?」


「そうね、元々倫理もなにも破綻してる相手なのだから法なんて関係ないでしょうね」


人の精神に干渉する事が出来るのは光と闇の魔術しかない、光は安らぎや高揚といった正の側面を司り、闇は不安や恐怖といった負の側面を司る。


だが光と闇は強靭な精神性を持たないと習得出来ない高等魔術とされ、とりわけ闇は術者の精神を蝕む危険性を持つ事から習得には光の魔術を必ず習得してなければならないと王国の法で決まっており、破れば死刑となっている。


「人避けの結界で目撃者をなくし、その間に拐ってるって事か…」


「そういう事でしょうね」


「なら犯人は行動に及ぶ際に必ずこの呪符を貼り付ける必要があるのか」


「…問題は場所が特定出来ない事ね」


この広い王都で呪符を貼り付けてる誰かを探し出すというのは現実的じゃない。


しばらく三人は考えていたが良案は浮かばず、まずは呪符が貼り付けられた場所を調べていこうという事になった。





―――――


ギルドを出ると既に日は暮れかかっていた、多くの人が家に帰り、酒場などが店を明け始めた所だろう。


「とりあえずは明日からにしましょうか、教団絡みとなるとまだおおっぴらに出来ないから人数を確保できないし…」


シャルがそう言って一時解散の流れになろうとした瞬間。


居住区の方から赤い火球が空へと昇り、爆ぜて消えた。


「なにかしら、花火?」


「…あれは」


シャルとセラが疑問符を浮かべるなか、レイルだけはそれを見て顔を強張らせる。


「レイル?」


「二人共、すまないが急いで行かなきゃならなくなった」


そう言ってレイルは花火が上がった方へと走り出す。


「レイル!?」


「ちょっ、どうしたのよ!?」


慌ててセラとシャルがレイルの後を追う、レイルが人をどかしながら進んでいる為になんとか追いつく事が出来た。


「あれは信号だ」


「信号?」


「俺が元いたパーティーは状況に応じて幾つか信号を共有してた、そのひとつが赤い花火を上げて自分の場所を知らせるものだ」


「その信号があれって訳ね」


「あぁ、そして赤い花火の意味は“救援が至急必要な状態”だ」


「「!!」」


居住区に向かっていくとふと向かっていた方向に対して嫌悪感が沸く、それは進む事に増していく。


「これは…」


「人避けの結界ね、通りで人が少なくなってく筈だわ」


嫌悪感を振り切って居住区の外れの方に行き、角を曲がる。


そこには戦闘の跡と地面に倒れるアレッサがいた。


「アレッサ!」


急いでアレッサの下に行き抱き起こす、すると僅かだが目を開いてレイルを見る。


「レイ…ル」


「アレッサ、なにがあった?」


「…いま、しめ…奇跡ってやつ…が」


「奇跡!?」


そして次に告げられた言葉に更にレイルは驚愕する。


「リリアが…連れてかれた…」

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