11:情報収集

“あ…、あぁ”


またこの夢だ、どれだけ忘れようとしてもこうして蘇ってくる。


“これが良い、良いよぉ…”


あの時響いた肉がぶつかり合う音とだらしなく快楽を貪る声が胸を締めつける。


扉の隙間から見た光景に眼を逸らしたくても出来なかった。


まるで獣の様に交わう姿は愛しかった人がなによりも醜いものに映った。






―――――


「…またか」


ベッドの上で身を起こして頭を押さえるレイルは吐き捨てる様に呟くとベッドから出て仕度する。


あの日からレイルは今の様な夢を見ている、その度に心の中で消えかけていた火が再燃する。


「俺はどうしたいんだろうな…」


パーティーを抜けた当初は自分の手で斬り捨てたくなる程怒りに呑まれていた、だがセネクを殺した事で怒りは勢いを失ってしまっていた。


だが怒りは決してなくなった訳ではなく、まるで忘れるなとでも言う様にあの夢を見る。


(それでも…)


幼い時から共に過ごし、今は失せども愛していた人であり、時間を置いて冷静さを取り戻した今なら自分にも落ち度があったんだと思える。


このままお互い関わらずに生きていく方が良いんじゃないか、そう考える自分もいる…。


「どっちが正しいんだろうな…」


ふたつの思いに揺らぎながらレイルは部屋を後にした。





―――――


「や、レイル君」


宿に併設されてる食堂に向かうとシャルとセラが席に座っており、レイルもセラの隣に座ると朝食を注文する。


「挨拶回りは終わったのか?」


「えぇ、ただ少し気になる情報が入ったから二人にも伝えておこうと思ってね」


「…気になる情報?」


セラが問い返すと首肯したシャルは話す。


「まず魔物の変化に関してなんだけどね、魔物達が現れた場所に幾つか誰かがいたのが目撃されてるの」


「…バニス教団か?」


「十中八九そうでしょうね、目撃情報は全て黒いローブを羽織っていたから人相は分からなかったらしいけど時期が一致してるもの」


やはりハウェルが言っていた魔物の出没にはバニス教団が関わっていた、ただ今の情報からしてアステラ単独ではなく集団である可能性が高いという所か。


「それとこれは関連あるかは分からないけどここ最近の王都では神隠しが起きてるらしいの」


「神隠し?」


「えぇ、日によっては立て続けに起きてるみたい」


「…もしかして」


シャルの情報を聞いたセラがなにかに気付いた顔をする、顔を上げると前のめりになって問い詰める。


「神隠しにあった人達はどんな人?共通点はある?」


「えっと、そうね…いなくなった人は子供から大人までいるのだけど共通点までは分からないわ、冒険者が多いけど普通の女子供までいなくなってるもの」


「…アステラは人を魔物に変える事が出来た、もしそれが他の教団の者にも出来るならその人達を…」


「…急いで調べた方が良さそうね」


そう言うとシャルは立ち上がって硬貨と紙をテーブルに置く。


「神隠しの件を将軍に報告してくるわ、二人は悪いけどいなくなった人達の共通点を調べてくれる?私も後から合流するわ」


紙にはいなくなった人達の名前等が書かれておりそれを確認して二人で頷くとシャルは宿を出て行く、それを見送ったレイルは朝食を食べながら思案する。


「人を魔物にか…」


思い出すのは魔物と化したセネクだった、魔物になったセネクはレイルへの憎悪に駆られていたが会話が出来る程度の知性は残っていた。


もしも人の知性を保ったまま魔物に変えて操れるとしたら…。


「レイル、どこから調べる?」


セラの声に思考を打ち切ったレイルは急いで朝食を食べ終えて答える。


「まずはいなくなった女子供を調べてみよう、冒険者に関してはシャルがいた方がギルドから情報を聞き出せるだろうから合流してからで良いんじゃないか」


「わかった」





―――――


いなくなった人達に関して情報を集めているレイルとセラだが…。


“いなくなった子ってあいつ?あいつっていつも魔術を使えるんだって自慢して俺たち馬鹿にしてたんだよなー、だから神様が罰当てたんじゃない?”


“そうねぇ…あの人なにかしら理由をつけてはサボる事が多かったわ、うちの中では一番魔力が多いから仕事では助かってたんだけど”


集まったのはそういったのが大半ではあるが共通点は見えてきた。


「いなくなった人達は魔力が多いか魔術を習得していた」


「それと関係あるかは分からないが性格に癖がある者が多いという所か」


セネクの前例を考えると教団の仕業という可能性は高いが中には魔術を使えなかったり性格に問題のない等の該当しない者もいる。


「確証が持てないな」


「ん、一度ギルドに戻って…あっ」


そんな事を話しながら歩いていると角から出てきた誰かとセラがぶつかる、よろけたセラを支えてぶつかった方に目を向けて息を呑む。


「す、すいませ…」


水色の髪を揺らして謝る彼女はこちらを見て驚愕に顔を染める。


かつての恋人リリアがそこにいた…。

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