10:近づく心

「デー…ト?」


レイルは今しがた言われた言葉を反芻する。


セラの言葉に理解が及ばない、いやデートの意味は分かるがそれを今言う理由が分からないと言った所か。


「先生が言ってた、悲しい事や辛い事があったら誰かと一緒になにかしてれば楽になるって」


「俺は別に…」


「…今のレイル、フォルトナールで戦っていた時と同じ顔をしてる」


「同じ顔?」


「…セネクって人を斬った時の、自分で自分を疎ましく思ってる様な顔」


「っ!?」


レイルは思わず自らの顔に手を当てる、自分はそこまでひどい顔をしていたのかと思案しているとセラはじっと見ながら続けた。


「貴方は怒りも憎しみも忘れない人だけど、それ以上に相手を重んじてしまう人だから…あの人達に許されたとしても


「…どうして分かるんだ?」


「私も先生に会うまで一人だったから、一人の時にどんな風に考えてしまうか知ってる…」


するりとセラの白い手がレイルの頬を撫でる、迷子を慈しむ様に。


「私の時は先生がいたから大丈夫だった、だから今度は私がそうする…レイルが自分を許せる様になるまで傍にいる」


「自分を…許す」


「今のレイルにはそれが必要、だと思う」


セラの言葉がレイルの胸中に染み入る、今まで弱い所を見せる事を無意識に嫌っていた心に初めて触れられたからか目元から熱い雫が流れ落ちそうになる。


それをすぐに拭うとセラへと向き直る、今までされてこなかった事をされた事への気恥ずかしさを誤魔化す為に彼女の手を取って通りを歩く。


「レイル?」


「デート、するんだろ」


振り返らずに続ける。


「ならエスコートくらいはさせてくれ」


頬を朱に染めたレイルを見てセラは僅かに頬を緩ませた。






―――――


デートする事になったレイルとセラだが当のレイル自身は頭を悩ませていた。


デートといってもレイルは王都にそれほど詳しくはないし過去の事もあって自信はない。


なにより今の今までセラとしてきた事は鍛練や魔術を教えてもらうばかりでセラがどんなものが好きかなどを知る機会もなかった。


(我ながら気の利かない…)


「あ、あれ」


レイルが頭を悩ませているとセラが一点を見て声を出す。


その先には魔術が付与された装飾品やアイテム、魔導具と呼ばれる武具や衣服を取り扱う店だった。


「あの店ここにもあったのか」


「知ってるの?」


「アインツにもあの店があったんだ、というか考えてみればこっちのが本店か」


扱ってる品物はどちらかといえば冒険者に向けたものが多く、デザインも幅広いので稼ぎのある冒険者が良く行っていたのを覚えている。


「少し見ていくか?」


「うん」


どことなく眼を輝かせたセラと店に入り、中を見回す。


王都に店を構えてるだけあってかかなり大きい、取り扱ってる品物の数もかなり多いようだ。


「なにを見るんだ?」


「アイテムと装飾品、この店の付与されてるのは使い捨ての物も永続的なのも優れた物が多い」


「アイテムはともかく装飾品はあまり詳しくないな」


「レイルはこういったのあまり使わない?」


「それなりに値が張る物だったからな、精々アイテムの補充か防具とかのメンテナンスでしか来た事がなかった」


アインツにいた時はリリアに装飾品を買って渡してた事もあったが当時は今ほど稼いでなかったから使い捨ての安いのしか渡せず依頼中に壊れてしまっていた。


「ん、じゃあ見に行こう」


そうして二人で装飾品のコーナーに向かう、イヤリングやアミュレットなど様々な物が所狭しと並べられており、セラはひとつひとつをつぶさに見ながら歩いて装飾品のひとつを手に取る。


「凄い、ここまで小規模の魔方陣を刻印するなんて…」


「これは…この爪程度の円が魔方陣なのか?」


「そう、身に付けた人の溢れた魔力を取り付けてある宝石に貯蔵する機能が付与されてる」


「…この小さな魔方陣でそれだけの効力を付与できるのか」


「普通ならこのくらいの付与をする陣は倍の大きさになるけどこれは宝石とこれ自体のデザインも魔方陣の一部として組み込まれてる、だからこのサイズにまで縮小できてるんだと思う」


その後もセラが様々な装飾品に施された魔術の説明を聞きながら見ていると日没を告げる鐘がなったので店を後にする。


「好きなんだな、ああいった物が」


「ん、作り手の技術と想いを感じれるのは特に」


「…なら、これ渡しておく」


レイルがそう言ってセラに懐から取り出したものを手渡す。


「これは?」


「共覚の鈴、というものらしい」


それは繊細な彫刻が施された鈴がついた飾り紐だった、持ち主の魔力を流す事で思念を増幅して伝えたり一度だけ持ち主が受ける致命傷を肩代わりする効果がある。


当然これだけの逸品だと値も張るが今はダンジョン攻略の賞与代わりに貰った金があるので気にする程でもない。


「いいの?」


「まぁ今日の礼とでも思ってくれ」


「…わかった」


そう言うとセラは鈴を杖の先端に結わえつける、杖を少し揺らして鈴の音を確かめるとどことなく喜色を含んだ眼でレイルを見る。


「大切にする」


「それはなによりだ」


宿へと向かいながら話していると気付く、レイルのざわついていた心は落ち着きを取り戻していた。


(自分を許す、か…)


きっとそれは簡単に出来はしないだろう、例えあの時パーティーを抜けなければ激情に呑まれてハウェル達を巻き込んでいたかも知れなかったとしてもだ。


それでもセラとなら自分のこの醜い部分を受け入れ許せる時は来るかも知れない、レイルがそう考えていると宿についたので互いの部屋へと向かう。


「それじゃ、おやすみレイル」


「あぁ、また明日なセラ」


そんななんてことない言葉を交わして二人は一日を終えた。

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