9:胸中

固まる二人にとりあえず素材を回収して王都に戻り、積もる話はギルドの談話室でしようと提案する。


ギルドに戻って互いの依頼完了の手続きを済ませた後、談話室に向かう途中でレイルから話を振る。


「ハウェル、二人はどうしてあそこで戦ってたんだ?」


「あ、あぁ、実は最近の王都周辺は今まで確認されなかった魔物が出没する様になってね、それで鋼鉄級以上の冒険者達に周辺の魔物の討伐と調査依頼が国から出ていたんだ」


「にしたってハイオークが群れてゴブリンを従えるなんて思わなかったけどね」


「ハイオークが?」


アレッサの言葉にレイルは疑問が浮かぶ


オークは群れで活動するが基本的にハイオークの様な上位種は群れに一体しか生まれない、ましてや食欲旺盛なオークからすれば雄しかいないゴブリンは食料でしかない筈なのに一緒に行動しているのが奇妙だ。


ましてや連携して戦うなど…。


(これもバニス教団とやらの仕業なのか?)


そんな事を考えながら歩いていると談話室に着いたのでレイルとセラ、ハウェルとアレッサで対面する様に座って腰掛ける。


「…その、生きててくれたんだねレイル」


「あぁ、色々とあってな」


「その色々は私達が聞いても良いものかい?」


「大した事じゃない、ドラゴンと戦って死にかけて昔の目標を思い出しただけだ」


「いやそれは大した事だよ!?」


レイルの返答にハウェルが突っ込む、そのやり取りに懐かしさを感じながらもレイルはハゥエル達と別れた後の事を順を追って説明していく。


セネクに関してはレイルに逆恨みして殺そうとしてきたのを返り討ちにして斬った事にした、教団によって魔物になった事など言える訳がない。


「彼にそんな一面があったなんて…」


「…」


ハウェルはセネクの暗い面を知ってショックを受けている様だった、曲がりなりにも長らくパーティーを組んでいたのだから当然だろう。


そしてアレッサは話を聞いて暫し黙りこんでいたが意を決したかの様に切り出す。


「レイル」


「なんだ?」


「アンタはリリアを今でも恨んで…殺したいと思ってる?」


「…」


その問いにレイルは思わず息を呑んでしまう。


レイルの中で様々な感情が蠢く、リリアに抱いていた愛憎がせめぎあい処理仕切れなくなった感情を抑えつけようと拳をきつく握りしめる。


「俺は…」


忘れていたと思っていた感情が噴き出そうとした瞬間…。


握りしめられた拳に白い手が重なる。


見ればセラがレイルに視線を向けていた、レイルを案じる想いが込められた眼を見て蠢いていた感情が鎮まっていく。


冷静さを取り戻したレイルは問いに答える。


「…確かにまだ許せてはいない、だけど過ぎた事でこれ以上なにかをしようとは思ってない。

セネクを斬ったのはヤツが俺を殺そうとしてきたからだ」


「…そう」


「リリアはどうしたんだ?一緒じゃないのか?」


「…彼女は今冒険者から退いて王都の治療院で働いているよ、あれから私達も色々とあってね」


ハウェルによるとリリアは王都に来た後、今の自分にパーティーにいる資格はないと言って冒険者を休止して治療院で働いているらしい、二人になったハウェルとアレッサは自分達の力量に合った依頼をしてようやく安定してきたのだそうだ。


「…すまなかった、結局二人には迷惑を掛けた」


「冒険者をやっていれば突然の事なんて当たり前だよ、君は筋を通して抜けたんだから気に病む必要はない」


「…まぁアンタの立場を考えれば仕方なかったから私も気にしてないわ、それより」


アレッサはレイルの隣に眼を向ける。


「その子、誰?」


どことなく最初にシャルと話した時の空気を感じるのは気のせいだろうか…。





―――――


セラは懐から冒険者タグを取り出してハウェルとアレッサに見せる。


「私はセラ、レイルとは互いの目的の為に取引をしてパーティーを組んでいる」


「取引?」


「私には強くなる必要がある、だからレイルに魔力操作を鍛え直してもらう代わりに魔術を教えるという契約を交わした」


それを聞いたアレッサはレイルに眼を向ける。


「…レイルの目的は聞いたけどどういう事?正直アンタの今までを聞いてたらパーティーを組む余裕なんてない様に思えたけど」


「余裕があるとは言えない、ただ逃げずに向き合わなきゃいけないと思っただけだ。

それにセラは俺を裏切らない」


「そんなの分からな…」


言い募ろうとするアレッサに対してセラは首元を少し緩める、するとジャラリという音を立てて隷属の首輪が露になる。


「それって…」


「これは信用の証として自分で着けた、魔術士ならこれが原本オリジナルの首輪だと分かる筈」


その言葉にハウェルとアレッサは揃って言葉を失くしたのは無理もない、自ら奴隷となってまでパーティーを組むなど普通なら正気を疑われてもおかしくない事だ。


「そこまで…いや、それぐらいでなければ信を示せないか…」


「…これ以上私達からなんか言うのは野暮ね」


どことなく納得した様なハウェルと諦感した様子のアレッサはそう呟くとレイル達を見る。


「なんにせよ今のアンタは心配いらなそうなのを喜ぶべきかしらね」


「…あぁ、ありがとう」


自分を案じたその言葉にレイルは小さな声で礼を言った。






―――――


それから色々な事を話して談話室を出たレイル達は宿に戻ろうとした所でアレッサに声を掛けられる。


「アンタが生きてたって事リリアに伝えても良い?あの子と会う気はないんでしょ?」


「…構わない、それとアレッサ」


「なに?」


「俺が言う資格はないと思うがリリアを頼む」


「…いいわよ、アンタとは別の意味であの子はほっとけないから」


そう言い残してアレッサは離れていく。


「…良い人達」


「あぁ、あの二人には会えて良かったと心から言える」


身勝手な理由で抜けたレイルを責めるでも怒るでもなく許してくれた、だからこそ…。


「レイル…」


もう少し上手くやれたらあの二人に迷惑を掛けなくて済んだんじゃないかと今でも思う…。


「…行こ、レイル」


「え?」


顔を暗くさせていたレイルの手を引いてセラはギルドを出る。


「セラ、宿に戻るならもう大丈夫だから手を」


「まだ戻らない」


セラはくるりとレイルに振り向くと言葉を続ける。


「私とデートして」

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