8:再会

ウェルク王国は大陸の西に位置する国だ、東のエルメディアと南のアスタルツに中継地点となるウェルク王国は豊富なダンジョン資源の輸出と国を行き来する行路として栄えてきた。


しかし人魔大戦で魔物の被害を最も受けた国であり、一時は亡国の危機にあったが現ウェルク王の采配により今はかつての隆盛を取り戻しつつある…。





―――――


フォルトナールから二日掛けて王都に着く、いくら国の馬車といっても体が凝るのは仕方ないがやはり良い気分にはならない。


「自分で走った方が速かったな…」


「それはレイルだけ…」


「冗談じゃないのが凄いわよね~」


王都に入り街道を歩きながら話す、シャルによると将軍は一度城に戻り報告と準備をするのだそうだ。


王との謁見もあるがそれらが済むのは三日程掛かるらしく、それまで待機している様にとの事らしい。


「まぁ、要はこれからきっちり働いてもらうから満喫しておけって事ね」


「…ぶっちゃけすぎでは」


「…シャルは大体こんな感じ」


そんな事を話しながらシャルに王都を案内してもらい冒険者ギルドにたどり着く、とりあえず待機してる間は一日で終わる様な討伐依頼などを受けて鍛練に回す方が良いだろうとセラと話し合って決めてあった。


「じゃあとりあえずはまた明日ね~、私は色々と挨拶や準備があるから」


「明日は一緒に来るんですか?」


「まぁこれからを考えれば一回でも一緒に戦ってみた方が良いものね、あぁそうそうセラちゃん」


そう言ってセラを引き寄せて耳元でボソボソとなにかを呟く、それを聞き終えたセラはびくっと体を震わせてシャルを見た。


シャルはというとどこか悪戯めいた笑みを浮かべて行ってしまった。


「なんて言われたんだ?」


「…なんでもない」


少しだけ頬を赤くしたセラは足早にギルドに入っていき、レイルは首を傾げながらも後に続いて中に入る事にした。






―――――


ギルドで依頼を受けたレイル達は王都近くにある湖に住み着いた『鋭嘴水蛇バニップ』の討伐に赴いていた。


「ブゥーーーーッ!!」


湖の中から飛び出したバニップが鋭い嘴をレイルに向けて突き出す。


身体強化を発動して剣で受け止めると上から氷槍がバニップに向けて放たれるが滑る様にして掻い潜り再び湖の中に潜りこんでしまう。


「くっ!」


水の中だとバニップは地上にいるより遥かに速い、“疾爪しっそう”を放ったとしても避けられるだろう。


「レイル、湖の真ん中まで飛べる?」


「出来るが、策があるのか?」


「ん、湖を凍らす訳にはいかないけど…」


そう言って杖を構えるセラは眼に魔力の光を灯して湖を見据える。


「誘導させるくらいなら手はある」


次の瞬間、数百という氷柱が湖の上に出現し、次々と湖に隙間なく突き立てられていく。


「ブゥーーーッ!!」


追い立てられたバニップは湖から飛び出してこちらをギョロリと睨む、その瞬間レイルは“天脚てんきゃく”を用いて宙を走り迫る。


「竜剣術『崩牙ほうが』」


突き出された嘴を体を捻って避け、交差した瞬間に放たれた黒刃がバニップの首を斬り落とした。





―――――


「お疲れ様」


「あぁ」


バニップの頭部と素材となる部位を回収して帰路につく、湖に倒したバニップが落ちた時は潜って回収すべきかと思ったがセラが水魔法で回収してくれたので濡れずに済んだ。


「魔力で部分的に強化できる様になったのか」


「レイルの様にとはいかないけど、多少は効果が出る様になった」


あれからセラにもレイル自身が魔力操作を使った際の感覚や操作する際に意識する所を教えたりしていた。


「魔力で体を覆うんじゃなく体内に流れる血をイメージして魔力を体に浸透させる、今までどうしてこれを思いつけなかったのか分からない…」


「まぁ俺も以前はそうやってたからな、体の細部にまで魔力を知覚して流せる様になったのはドラゴンと戦ってからだった」


感覚的な事なので説明に四苦八苦していたがセラに魔力譲渡で魔力を渡してみれば分かるかも知れないと言われて試したが思いの他上手くいった。


魔力譲渡してる間、セラがびくりと震えたり眼を潤ませて小刻みに息を吐く姿は心臓に悪かったが…。


「?」


王都に戻る途中でふと耳に届いた音に振り向く、次いで流れてくる風から血の匂いを感じ取ったレイルは流れてきた方向に向いて眼に魔力を集中させる。


「あの二人は!?」


眼に映ったのは数体のハイオークとゴブリンが二人の冒険者に襲い掛かっていた光景だった、それにあの二人は…。


気づけば駆け出していた、剣を引き抜いて魔力を迸らせる。


冒険者の二人は巧みな連携で捌いているが二人の意識の隙間をついてハイオークの影からゴブリンが飛び出して手のナイフで斬り掛かる。


(間に合わない!)


だがゴブリンがナイフを振り下ろす前に氷槍がゴブリンを貫いて吹き飛ばす。


(っ!助かる!)


天脚てんきゃく”を使ってハイオークの群れの中に飛び込む、突然上空から現れたレイルにハイオーク達は一瞬止まれどすぐさま各々が持つ武器を振り上げるが…。


「竜剣術『旋尾衝せんびしょう』」


レイルが体を独楽の様に回転させると同時に剣から黒い尾の様な斬撃が放たれ、ハイオーク達の足や腹を斬り刻む。


「「「グォォォーーーーッ!!?」」」


思わぬダメージに叫びながらハイオーク達が倒れる、二人の冒険者は突然の救援に驚いた様だがすぐに切り替えたのか倒れたハイオーク達にトドメを刺していく。


少しして二人を襲っていたハイオークとゴブリンの群れは全て討伐され、追いついたセラとレイルは襲われていた二人の冒険者と向き合う。


「すまない、助かった…え?」


「…こんな形で会うとはな」


分かってはいた、彼等が王都に向かったというのを知っていたから再会するだろうとは思っていた。


レイルを見て固まる二人に意を決して声を掛ける。


「久しぶりだな…ハウェル、アレッサ」

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