7:王都へ

シャルと戦ってから休養とセラの魔力操作の鍛練をしていると三日経ち、レイル達は将軍が率いる隊の馬車のひとつに乗って王都へ向かっていた。


「属性は地水火風の四つだけと思われがちだけど実際は違う、光と闇の二大属性から生まれたのがさっきの基本四属性、更にそれぞれが混ざりあって幾多の複合属性がある」


「複合属性?」


「基本四属性をふたつ以上合わせる事で生まれる属性をそう言う、例えば私の氷属性は水と風を合わせる事で生み出す」


馬車の中で揺らされながら魔術に関する講義を受ける、セラの説明は要点を押さえたもので分かりやすく疑問にもしっかりと答えてくれる。


ちなみにシャルは話があるとの事で将軍の馬車に乗っている、後でこちらに合流するらしい。


「なら基本属性を使えればどんな魔術も使えるって事なのか?」


レイルの問いかけに対してセラは首を横に振る。


「理論上はそうだけど不可能、人には先天的に属性が決まってて普通はひとつ、ふたつ以上の先天属性を持ってるのは100人に1人いるかどうか、みっつ以上になると10年に1人かそれ以上の天賦の才ってされてる」


「なるほど…その、先天属性はどうやって見極めるんだ?」


「見てあげる、手を出して」


言われるままに手を出すとセラは出された手を包み込む様に触れる。


「少しで良いから魔力を流してみて」


言われた通りに自分が認識できる魔力から少しだけ手を通して魔力を流しこむと…。


「んんっ!?」


するとセラはびくりと体を震わせて手をぎゅっと握りこむ、手に突然訪れた柔らかい感触と反応に一瞬呆気に取られると少し涙目になったセラがじとっとした目でレイルを睨む。


「…少しって言ったのに」


「す、すまない…」


どうやら魔力が多かったらしい、セラは頭を横に振るうとするりと手を離す。


「…レイルの魔力操作を考えれば知覚してる魔力量も多いのは当然だった、だから良い」


「次からは気をつける、大丈夫か?」


「…大丈夫、それに貴方の属性の影響もあるから」


セラは息を整えると先程の反応に関して話す、属性には相乗と相殺の関係があり、相殺の関係にあるものはぶつかり合うと反発を起こす事があるそうだ。


「じゃあ俺の属性は…」


「火、それと風が貴方の属性…複合で生まれる代表的なのは雷」


「雷…」


「貴方から流れてきた魔力の質からしてそれが一番発現しやすい…と思う」


「…どうした?」


「私の感覚でしかないのだけど貴方の属性、とても不安定な感じがした。

まるで元の絵に上から色を塗り潰した様な…」


「…まさか」


そう言われて思い至るのは自身の体に起きた事だ、エルグランドとの戦いで自分の中には竜の血が流れている事が判明した。


剣を掴んで魔力を流し込むと同時に語りかける、起こし方など分からないがこうするしかないだろう。


「エルグランド、起きてるか?」


(…どうした?)


馬車の中に静かながらも重厚な声が響く、どうやら間違ってなかったようだ。


「剣が喋った…?」


「あぁうん、ちゃんと説明するから落ち着いてくれ」





―――――


セラに天竜の封窟で起きた事を話す、最初は驚いていたが聞き終わると少しの沈黙の後に切り出す。


「エルグランド…で良い?聞きたい事がある」


(なんだ?)


「レイルは竜の血を取り込んでその体が変容してる、それは彼の属性もそうなってると考えられる?」


(然り、レイルの元がなんであったかは知らぬが竜の血が発現した段階で属性も変容せざるを得なかった。

その結果レイルの精神状態に最も呼応する属性に変わったと考えるのが妥当であろう)


風は我の血が強く出たからであろうな、とエルグランドは付け足す。


…自分の体だが改めて妙な体になったと思うのは仕方ない事だろう。


「…レイル、竜の力はあまり使わない方が良いと思う」


「まあまだ制御出来てないしな」


「それもあるけど違う」


そう言ってセラはレイルを見て続ける。


「聞いた通りの事が起きてるなら、今はまだ一部でもレイルの精神次第でが変容する可能性は否定できない」


「!」


「感情が引き金になってそれが起きたら、貴方が我を失って暴走する可能性は大いにある。

だから…」


「…」


セラの憂いを込めた瞳に見つめられながらレイルは自らの手を見つめる、馬車の走る音が中に静かに鳴り響いた。






―――――


その頃、王都にて


王都の一角、中央の街道をは歩いていた。


それは袖のないコートを纏っており顔はフードを目深に被って口元までしか見えていない。


なによりも目を引くのは両腕に巻きつけられている鎖だろう、素肌が見えぬ程幾重にも巻きつけられた鎖をじゃらじゃらと鳴らしながら道を歩いている。


だが誰もそれを見ていない、気にも止めない

まるで最初から存在していないかの様に…。


「…うるさい、煩い、五月蝿いなぁ」


それはしゃがれた声で誰に聞かせるでもなく呟く。


「所詮、主の教えを理解できぬ石ころとは言えどうしてこうも生き汚く喧しいのか…分からぬ、解らぬ、判らぬ」


フードの中の眼が光る、純粋な狂信の輝きを以て。


「しかし石ころ汚泥の中にも玉はあるもの、磨かねば測れぬものもある、故にしよう、試そう、測ろうではないか」


「我等に連なる奇跡に成りうる者がいるか探してみようではないか」


次の歯車は既に動き出していた…。

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