6:理由
「はぁ…」
街道を歩きながら聞こえてきたのはため息だった、そこには若干凹んだ様子のシャルがセラの隣を歩いている。
「真正面から戦うのは暗殺者には不向き、引き摺らなくても良いと思う」
「ありがとセラちゃん、でも私にも黄金級のプライドがあるのよ~…」
セラにひっつきながらシャルはため息と共に言葉を溢す、その姿からは彼女が黄金級冒険者とわかるのは実際に戦った者と戦いを見ていた者くらいだろう。
「ギリギリの戦いだった、もし場所がダンジョンの中だったら負けてたのは俺だった」
「暗殺者は手を読まれた時点で負けよ~、というか君のあれなんなの?」
「硬身という技だ、魔力を集約してその部分を硬化させる」
「…簡単に言ってるけどそれとんでもない技よ?私のじい様だってあそこまで硬くは出来ないわ…」
あれから今後の予定や詳細を話し合い、三日後に王都に向かう事になったレイル達はそれまで準備や休息に当てて欲しいという指示を受けて解散となった。
そしてレイガスの薦めで損害を免れたという湯治施設に向かっていた。
“汗を流すならあれ以外ねえぞ、騙されたと思っていってみな”
レイガスの薦めに女性二人が賛同した事で今日は休息に努め、明日から準備や鍛練などを行う事になった。
「ところで湯治、というのはどういうものなんだ?」
「あれ?もしかして行った事ない?」
「少し前までアインツで活動してたからな、この街に来て半月も経ってないんだ」
「なるほどねー、そういう事なら教えたげるわ」
説明してくれるのはありがたいがセラから離れた方が良いのでは...心なしかふてくされてる気がするのだが。
「湯治って言うのはかいつまんで説明するとお湯に体を浸して癒す事よ、この街のだと岩を組んで作った大きな風呂桶に火の魔法で熱くしたお湯を入れて浸かるんだけど南のアルスタルツでは温泉を引いて浸かるらしいわ」
「温泉?」
「火山の力で温められた泉って言えば良いかしら?中々良かったわ」
その後も湯治に関わる事を聞きながら歩いていると施設に着いた、中に入り受付に冒険者タグを見せるとレイガスの言伝てがあったらしく大衆用の風呂ではなくパーティー用の個別風呂に入れる事になった。
―――――
パチャリ...
水音を立てながらセラは湯船に肢体を浸す、体を包み込む感覚に体を弛緩させて息を吐く。
水浴びや体を拭くだけでも汚れは落とせるがこの心地好さを知ると料金が高いとしても出来る限りはこちらを使いたくなるのは自分だけじゃないだろう。
「はぁー、やっぱりダンジョン帰りはこれに限るわねぇー」
隣で今まさにその事実を体現してるシャルが年寄りじみた事を言ってるなと思いながらも口に出さずに肩まで浸かる。
…こうして隣で見るとシャルはメリハリのあるプロポーションだと再確認する、セラとて人並に発育はしていると思うが彼女と比べたら劣ってしまうだろう。
「はぁー、でも負けるとは思ってなかったわぁ…うちのじい様が似た様な技使ってたけどあんな硬さにまでなるなんてねー、流石セラちゃんが惚れるだけはあるわ」
「惚れっ!?」
漠然とした思考を粉々にする発言に思わず体ごとシャルに向き直ると惚けた様子のシャルが続ける。
「違うの?隷属の輪を嵌めてまで彼の仲間になるなんてそうとしか思えないのだけど?」
「それは!…強くなる為にも彼の仲間になる必要があって…」
顔を紅くして段々としりすぼみになっていくセラを抱きしめたくなる衝動を抑えて言葉を紡ぐ。
「まあ興味本位だから嫌なら聞かないけど気にはなるのよね、今までどのパーティーにも入らなかったセラちゃんが奴隷になってまであのレイル君の仲間になった理由が」
「…」
再び湯に体を浸したセラは顔を俯かせてしまう、これは駄目かと思った瞬間…。
「…私に、似てたから」
「え?」
ぽつり、とセラは語り出した。
「最初はただ強くなりたいだけだった、でもレイルに助けられて…彼の言葉を聞いて…私以上にボロボロになっていきそうな姿が見ていられなくて…」
「セラちゃん…」
「だから、あの手をなんとしても掴まなきゃと思ったらこうしてた…ズルいやり方で彼を繋いだ…」
強くなりたいという打算はある、だけどそれ以上にレイルを一人にさせたくなかった。
一人がどれだけ辛いかを知っているから、誰も頼れない世界がどれだけ暗く息苦しいかを知っているから、そこをなにかを失ったまま進もうとする彼の良心を利用する様な方法で繋がりを作って手を取った。
「だから、好きかどうかって聞かれたら分からない…こんな風に思ったのも行動したのも初めてだから…」
(…一目瞭然な気はするけどねぇ)
だがそれはシャルが言うべき事ではないだろう、その気持ちは、思いは自分で気付いて価値があるものだろうから。
「まあセラちゃんがちゃんと自分の意思で決めたなら良いけど気をつけた方が良いわよ?」
「?」
「戦ってみて思ったんだけど…レイル君は私やセラちゃんと違って自分が死ぬ事を怖れてないわ」
「死ぬのを、怖れてない…」
「そう、だから一緒にいるなら目を離さない方が良いわよ」
憂いを込めた瞳で彼女は語る。
「ああいう子は誰かが止めないと自分で自分の命を使い潰しちゃうわよ」
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