閑話:氷華の心

レイルとパーティーを組んだその夜。


セラは自身が泊まる宿のベッドで中々寝つけないでいた、理由は首に嵌められた輪の慣れない感触で眠気が出ないのだ。


(…いずれ慣れる筈)


寝転がりながら首輪に触れる、そして今日の…いや、あの戦いの時からの事を思い出していた。


実を言うとセラはあの戦い以来魔力の操作が以前よりも上手くなっていた、といってもレイルの様に完全に掌握するといったレベルではなく人よりは上手く出来るといった程度だが。


例えるならレイルが扉を開けたのに対してセラは扉に触れた程度のものだ、だがきっかけを掴んだ今のセラならばいずれ自力で扉を開ける事は可能だろう。


(でも…)


セラは奴隷となってまでレイルとパーティーを組んだ、冷静になった今はどうして自分はそこまでしたのか考える。


そうして思い出されるのは…。


“間に合った、と言うべきか”


“…後ろにいろ”


あの助けられた時の姿と自分が敵わなかった魔人を圧倒する姿、そして魔人を倒した時にレイルが一瞬だけ見せた辛そうな表情...。


あの時のレイルの眼に映った感情をセラは知っている、あれは“諦め”だった。


誰かに期待する事を、向けられた悪意から自分を守る為に心を閉ざそうとしていたかつてのセラと近い眼を彼はしていた。


見ていられなかった、まるで助けられなかった自分を見ているかの様な、自分が壊れる事すらどうでも良くなってしまった様な姿を自分を助けてくれた人にして欲しくなかった。


“しっかり掴まって静かにな、舌噛んでも知らないぞ”


それに初めてだった、誰かに抱き上げられるなど…。


「…~っ!?」


何故か顔が熱くなって毛布に顔を埋める、さっきから心臓がうるさくて仕方ない。


(…先生の時はこんなにならなかったのに)


最初にセラを助けてくれた魔術士の女性は先生としてセラに色々と教えてくれたがこれは知らない、教えてもらってない。


あの時のレイルの事を思い出すとなぜかこんな状態になる、明らかにおかしいのに不快感などは感じない。


(…一人でやるより経験者に教えてもらう方が効率が良い、それに信じられる人とパーティーを組めたからそれで高揚してる、のかな?)


そう結論を下したセラは目を瞑って毛布にくるまる。


胸の高まりは眠りにつくまで治まらなかった…。

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