22:終結、そして...

炎が霧散すると黒い血を流してセネクが崩れ落ちる。


「ガ、フッ…」


「…」


「トド、カナイ…ノカ…、ヒトヲ、捨テテモ…」


血を吐きながらセネクが溢す、レイルはセネクの命の火が消える直前…。


「お前がなんで人じゃなくなったか知らないが…人の時の方が強かったぞ…セネク」


その言葉が届いたかは分からない、異形の魔人と化したセネクの命の火は既に潰えてしまっていた。


「…っ」


血を払い剣を納めて踵を返す、少しだけ顔色が戻ったセラがこちらに向かっていた。


「もう動けるのか?」


「…ん、貴方が助けてくれたから…」


彼女はそう言うが多少顔色が戻ってもフラフラなのは一目瞭然だった、普段感じる魔力も今は随分とか細いものになっている。


それに着ているローブも所々焼け焦げてるせいで彼女の脚や腹部が顕になっているのも痛々しさに拍車を掛けていた。


「普通に重傷に見えるんだが…」


「…大丈夫」


「はぁ…」


ため息をつきながら頭を掻く、これは何を言っても大丈夫の一点張りだろう。


そう判断したレイルは彼女を引き寄せると膝に手を通して抱えあげる、いわゆるお姫様抱っこだ。


「きゃっ!?…な、なにを?」


「回復術士の所まで連れていく、ここで置いていくのは寝覚めが悪い」


そう言って『天脚てんきゃく』を使って宙を蹴り上がっていく、上空から街を見回すと他の場所も少しずつだが戦局は冒険者側に傾いてる様だ。


「と、飛んでる…」


「しっかり掴まって静かにな、舌噛んでも知らないぞ」


そのまま宙を駆けて避難区域にいた回復術士の所にまでセラを送り届け、レイルは冒険者達への救援に向かう。


戦局はこちらに傾いてる、今レイルがなにもしなくても戦いは収まるだろう…でも。


(このままなにもしないのは…違うよな)


そう結論を出して『天脚てんきゃく』を使って街の中央の上空に昇って魔物が集まってる場所を確認する。


「竜剣術『疾爪しっそう・五連』!」


集まった魔物や冒険者達がまばらな所を中心に魔力の限界まで斬撃を放って間引いていく。


レイルの斬擊によって足並みを崩された魔物達をここぞとばかりに冒険者達が駆逐していった。


こうしてフォルトナールを襲った未曾有の魔物の暴走群スタンピードは多くの犠牲と被害を出したものの鎮圧されたのであった。






―――――


魔物の暴走群スタンピードから数日後


フォルトナールでは慌ただしく復興が進められていた。


レイルもここ数日は瓦礫の撤去や魔物の処理などに務めており、ようやく一段落ついたのでギルドにダンジョン踏破の報告と回収したタグや鱗の提出を済ませて宿屋の一室で休んでいた。


控えめなノックの音が響く


「誰だ?」


ドアを開けるとフードを被ったセラが立っていた、おそらく目立つのを防ぐ為のものだろう。


「…話がある、入っても良い?」


「あ、ああ」


部屋にある椅子に座る様に勧めて自分はベッドに腰掛ける、椅子に座ったセラはフードを取ると改めてアイスブルーの眼をこちらに向けた。


「…まずはお礼、助けてくれてありがとう、貴方が来てくれなかったら私は死んでた」


「ああ、いいんだ、どっちにしろあいつとは決着をつけなきゃならなかっただろうしな」


「それでも言わせて欲しかった、それともうひとつ本題の方がある」


「本題?」


「…私は貴方とパーティーを組みたい」


姿勢を直して出た言葉はレイルの動きを止めるには充分過ぎた。


「…俺は」


「…分かってる、でも最後まで話を聞いて欲しい」


セラはこちらを真っ直ぐに見つめて言う、聞くまで動かないという意思を感じたレイルは少し間を置いてから頷いた。


それを見てセラはぽつりと語り出した。


「…私が貴方を求めるのは“最高”の魔術師になりたいから」


そこから話されたのは彼女の生い立ちと強さを求める理由だった、語られた目的には自分のものと近いものを感じた。


「だから貴方の仲間になりたい、貴方の傍なら私の目的が達成できると思ったから」


…彼女の真意も目的も理解した、話したというのはそれを許すくらいには自分に心を開いてくれてるのだろう…だが。


「…すまない」


それでも仲間にはなれない、今はそうでもこれから先、彼女が自分の背中を狙うかもしれないという被害妄想としか言えない可能性に背筋に冷たいものが走る。


「…わかった、仲間になるのは諦める」


「あぁ…」


「…なら取引にする」


「え?」


「…貴方は最強になりたい、私は最高になりたい、ここは間違ってない?」


「ま、間違ってはないが…」


「なら取引、貴方は私に貴方の魔力操作を教える、そして私は貴方に魔術を教えるのはどう?」


「魔術を?」


「…最強になるというなら使う使わないはともかく魔術の造詣に通じれば魔術を使う相手と戦いやすくなる、貴方の目的の為には必要なものだと思う」


セラの言葉は確かに一理ある、これから先魔術を使う相手と戦う事を考えればその知識は喉から手が出るほど欲しい。


「…もちろん、これだけじゃない」


「ん?」


「…今のはお互いのメリットの話、私が貴方を裏切らないという証明にはならない、だから」


そう言って彼女が懐から取り出したのは飾り気のない鉄製の首輪だった。


「それは?」


「…隷属の輪、それも今の奴隷に使われる一般的なものじゃなく古代の技術を駆使して作られた原本オリジナルとでも言うべきもの」


隷属の輪とは奴隷につけられる魔道具の事だ、これを嵌められた者は主人と定められた者に対して危害を加えたり等をすると苦痛を起こし、程度と場合によっては死に至る事もある。


「…原本オリジナルと今のものの違いは自分で嵌めた時、


「…まさか!」


その言葉を聞いて止めようとするが遅かった、セラは自身の首に隷属の輪を嵌めてしまった。


その瞬間、右手の甲が熱くなる。


見てみるとそこには鍵と輪を模した紋章が浮かび上がっていた。


奴隷の主人となった証だった…。

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