20:“最高”を求めて(セラside)
それは氷嵐の渦だった、渦の中は冷気とあらゆる形の氷が荒れ狂って飛び回り、嵐の中にあるものを命の有無を問わず凍てつかせ砕いていく。
やがて渦は天に昇って去っていく、その跡には凍りついた地面と円状に削り取られ氷で覆われた建物が残るだけだった。
「…うぅ、くっ」
セラは呻き声をあげてその場に座りこむ。
自身が使える最大級の魔術を使った結果、セラは膨大な魔力を根こそぎ消費してしまった。
そこに虚像を映す氷魔術の同時展開も相まって魔力を大量消費した虚脱感と頭痛が同時に襲ってくる。
「でも…生き残った」
ポーションを取り出して飲み干すと立ち上がる、他の冒険者達と合流してあの女の事を伝える必要がある以上まだ油断は出来ない。
そう思った瞬間、地面から炎が噴き出した。
「っ!?…あぅ!!」
噴き出した火柱から飛び出した腕がセラを弾き飛ばす、転がり倒れるセラの目に地面から這い出るセネクの姿が映った。
(まさか…あの直前に炎を出したのは地面を掘って潜る為に!?)
流石に無事に逃れる事は出来なかったのだろう、右側の腕が一本肘から先が失くなっているし所々抉られた傷から血を流している。
だがそれでも余力を残しているとわかる姿はセラを焦らせるには充分過ぎた。
セネクの腕から火球が放たれる、残された魔力で氷を纏うが吹き飛ばされ瓦礫に叩きつけられてぼろぼろになってしまう。
「くっ…う…」
もはや逃げる事は不可能で魔力も尽きかけてる、満身創痍のセラに炎の剣を生み出したセネクが一歩一歩近づいてくる。
…ここで死ぬの?
嫌…死にたくない、私はまだ目的を果たしてない…私はまだ…。
「“最高”の魔術士に、なれてない!」
―――――
セラはとある貴族と愛人の間に産まれた子だった。
優れた魔力を持ったセラを貴族の父親が引き取ったがその後すぐに流行り病で父親は死んだ。
そこからセラの日々は変わった、正妻とその子供はセラを疎ましく思い冷遇した。
理不尽な仕打ちの果てにセラが10歳の時に人拐いに見せかけて彼女を裏の住人に売り渡した。
その時のセラは子供らしい心を失っていた、夢を見る事はなく、辛い現実は変わる事はないと諦めた眼に光はなかった。
だがそこで彼女は出会った、自らが売りに出される前に彼女は一人の魔術士の手によって助け出された。
“勿体ない!これだけ綺麗な眼をしてるのに曇らせてしまうなんて!?”
“辛い現実は変わらない?なら変えてやるのさ!私だって魔術で自分の世界を変えてみせたのだから!”
“私の弟子にしてあげるわ!君が一人でも現実を変えれる方法を教えてあげるわ!”
半ば強引に助けられた魔術士の弟子となって数年過ごした、彼女がセラに見せた魔術と与えたものがセラの光を取り戻すのに時間は掛からなかった。
そこからセラの目的は決まった、自身を救ってくれた彼女は“最高”の魔術士だった、だからこそ自分は彼女を超える“最高”の魔術士になって彼女が胸を張って最高の弟子だと言える存在になる事が目的になったのだ。
―――――
「私はまだ、死ねない!」
杖を突き出して残った魔力を全て注ぐ、限界まで圧縮した氷を解き放つ。
撃ち出された氷の弾丸は炎を貫いてセネクの頭へとぶつかり、大の字になって倒れる。
「やっ…た?」
思わず零れた呟きが響く、だが…。
「ギィーーーーッ!!」
全身から炎を放ちながらセネクが立ち上がる。
額から黒い血を流しながらセラに向けて憤怒を宿した眼で睨みつける。
…分かってる、現実はそんなに甘くはない。
どれだけ努力しても、抗ってもそれを嘲笑うかの様に無に帰す事は珍しい事なんかじゃない。
…だけど、光を得たセラは願ってしまう、自分がかつて闇から救い出してくれたあの人の様に誰かが来てくれるんじゃないかと…。
「…助けて」
炎の剣が振るわれる。
「わかった」
目の前に黒い影が現れる、迫っていた炎の剣を弾いて流れる様に刃が振るわれてセネクを弾き飛ばす。
「…あ」
「間に合った、と言うべきか」
影がこちらを振り返る、セラは言葉を失いその顔を見つめてしまう。
セネクは突然現れたその者を認識して炎を撒き散らしながらその名を叫ぶ。
「レイルゥーーーーーーーーッ!!!!!!」
戦火に包まれた街で因縁の二人が再び対峙した。
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