18:戦火のフォルトナール(セラside)
魔物達の猛攻は凄まじかった。
防壁にいた衛兵達の攻撃もその勢いの前には虚しく北側の門が破壊されて魔物が雪崩れ込み、そこから続く様に西と南の門も破壊された。
中央と東側を除いて街は戦火に包まれた…。
「どっせぇい!!」
ザジが気合いの一声と共に手甲を『
吹き飛ばされたファイアハウンドは後ろにいた魔物ごと壁に叩きつけられ動かなくなる。
「くそ!どれもこれも炎熱系統ばかりなのはどういう事だ!!」
ザジは飛び掛かってくる魔物を返り討ちにしながら悪態をつく。
市街地戦で炎は厄介だった、火の手がまわればそれだけで行動を制限されるし煙を吸えば悪影響は確実に出てくる。
再び魔物の群れが目に映ったので身構えると
幾多もの氷柱が地面から出現し、魔物達を貫いた。
更に冷気が建物を伝っていき炎が広がるのを防いでいく。
「こ、こいつぁ…」
一瞬にして変わった景色に銀髪が拡がり、杖を携えたセラがザジ達の前に立つ。
「…南と西の方に向かって、ここは私一人でいい」
「し、しかし…」
冒険者の一人が言い募ろうとすると氷壁を押し退けて魔物が現れる、だがセラが杖を一振りすると冷気と共に氷柱が魔物を串刺しにする。
「…巻き込む可能性がある、全力を出すなら一人が良いから他へ行って」
「…しゃあねぇ、行くぞ」
ザジが声をあげる、不承不承ながら他の冒険者達も従って西と南に向かっていく。
「おい、死ぬんじゃねぇぞ!」
「…当たり前」
ザジが去り際に言い残した言葉を聞きながらセラは襲いくる魔物達と向かい合った。
―――――
迫りくる魔物達を氷柱と氷塊で屠りながら北の門へと進んでいく。
建物の陰から現れた『
ファイアハウンド達が吐き出す炎を氷壁で防いで氷の礫で叩きのめす。
(これで北側のはほとんど倒した筈…)
「うふふ、思った以上に素晴らしい力ですわ」
一息ついたセラに声が掛けられる、声の方へ向くと修道服を纏った女が立っていた。
「…誰?」
「あらあら、その様に警戒しなくても私はなにもしませんよ?」
杖を向けて誰何の声を掛けると女はひどく場違いに思える雰囲気で話し掛けてくる、警戒しながら杖を構えて睨みつける。
「ええ、ええ、まずは名乗るべきでしょうね。
私はアステラ、主バニスより“救済”の奇跡を拝命した者にございます。
この度は貴方とお話がしたくてこの場を用意させて頂きました」
女、アステラは服の裾を摘まんで一礼する。
そこだけなら敬虔なシスターに見えるが背負った十字槍と破壊された街並みが彼女の異常さを醸し出している。
「…今回の
「もちろんお話はありますよ?でもそれだけでなく主の為に多くの方々を救済する使命が私にはありますのでどちらかと言えばこの場を設けたのはそのついでになりますね、それに…」
ヴェールの下にある口元を吊り上げてアステラは妖しく微笑みながら口にする。
「勧誘するにはこちらがどれだけの力を持っているか知ってもらう必要があるでしょう?」
「…勧誘?」
「ええ、単刀直入に申し上げます。
私達の仲間になりませんか?貴方は素晴らしい才能と意思を持っています、私達と共に来て頂ければより一層輝かす事が出来ますよ?
それが嘘ではないのは今ここで起きてる事が証左です」
アステラは街で上がる戦火を一瞥しながら告げる。
「今回連れてきた魔物達は大半は自然にいたものですが中には私が人という枷から解放してさしあげた方々もいるのです、素晴らしいでしょう?」
どこか誇らしげな口調でアステラが発した言葉を一瞬聞き間違いかと思ってしまった、もし今の発言が事実だとしたら…。
「…人を魔物に変える?そんな事出来る訳が」
「出来るのですよ、奇跡となったこの身ならば…そして貴方ならば私以上の奇跡になれる筈です」
そうしてアステラは手を差し出しながら続ける。
「さあ、私の手をとって、貴方には強くなる必要があるのでは?貴方は目的が叶い、私達は同士が増える、利害は一致してるでしょう?」
「…確かに私の目的の為には強さが必要」
セラはそう言って手を前に出し…。
氷柱をアステラに向けて放った。
見た目とは裏腹に俊敏な動きで避けるアステラは続けて放たれた氷柱を突如背から蝙蝠の翼を生やして近くの建物へと飛び移る事で避ける。
「共に来ては頂けない、という事でしょうか?」
「私の目的は道を外れた時点で叶わなくなる、道を踏み外してまで得る強さなんて紛い物では意味がないの」
「ふふ、残念フラれてしまいました」
「…貴方は捕らえる、無理ならこの場で凍死させる」
「困りますねぇ、私には使命がありますのでもう行かなければならないのですが貴方が欲しいのは変わらないので…ですから」
アステラは虚空に手をかざすと指を鳴らす、するとアステラの傍に何かが飛来して降り立つ。
「殺しても良いので彼女を連れてきてください、お願いしますねセネクさん」
そう言い残してアステラが飛び去ると同時に全身を炎に包まれた四つ腕の魔人がセラを認識して飛び掛かった…。
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