16:天竜との語らい
目を覚ますと全身がひび割れる様な痛みに襲われる、ポーションに手を伸ばそうとするがアイテムポーチはズタズタになっていて中身の大半がなくなっていた。
(長く使ってたんだがな…)
「目覚めたか、レイル」
掛けられた声にようやく今までの事を思い出したレイルはぼんやりしていた意識を覚醒させてバネの様に跳び起きて声の方に眼を向ける。
そこには血だまりの中に体を横たえるエルグランドがいた。
「身構える必要はない、もはや我に汝を殺す力も意思もない。
この戦い、紛う事なく汝の勝利だ」
そう答えるエルグランドからは確かに先程までの覇気を感じない、戦う意思がないと言うのは本当だろう。
「どうした?我に勝利したのだぞ、喜ぶべきであろう」
「いや、あれだけ戦ったにしては俺も貴方も元気だなと思ってな…」
「我が身は直に終わる、その前に語らいたくなるのは知恵を持つ者なら必然であろう」
それに、と付け加えて言われたのは信じられない言葉だった。
「興味が湧いたのだ、人である汝が我等と同じ眼に変わった事にな」
「…は?」
「ふむ、気付いておらなんだか」
そうして語られたのは自身の身に起きた変化の事だった、それに対して心当たりはないかと聞かれた時、ある事が頭をよぎる。
「下位のだがドラゴンの肉を食べたんだが…」
「うむ、おそらくそれだな」
「だがドラゴンの肉を食べてドラゴンになるなんて聞いた事がない、それなら魔物の肉を食べた人間は魔物になるんじゃないか?」
「いや、普通はならん、本来であれば少しずつ汝の血肉になって竜の血など消えていただろうよ。
しかし汝は我の血を浴びただろう?おそらくそれが消えかけてた竜の血を起こしたのだろうな」
「…つまり、俺は竜になるのか?」
「竜そのものになる事はないだろう、それに肉体の一部として発現したならば竜の血は我のと合わせて汝の体に馴染んできている。
いずれある程度は己の意思で制御する事ができるだろう」
それを聞いて安心した様な不安が残った様な複雑な気持ちになる、いくら腹が空いたとは言えドラゴンの肉を食うのは不味かったか?
…いや、そのおかげでこうして生きてる訳だから結果として良かったのか。
「我も長き時を生きたがその様な事は聞いた事がない故に憶測でしかないがな、だが汝の目的の為にはそれも力のひとつになるだろうよ」
「…そうだな」
「ふむ…朽ちるを待つだけかと思ったが些か惜しくなってきたな」
エルグランドがそう呟きながら立ち上がる、血を垂らしながら何かを唱えるとその体が光輝きあっという間に視界が白く染まる。
しばらくするとズゥン、と音が響いたので眼を開けるとエルグランドが事切れた様に倒れていた。
「…エルグランド?」
(なんだ?)
突然傍から、というか剣から聞こえてきたので見てみると思わず唖然としてしまう。
剣が変わっていた、面影はあるのだが鍔は竜を模した物になっており刀身を確認してみると鋼だった筈の刀身は白い爪の様な素材に変わっている。
「…まさか」
(うむ、上手くいった様だ)
「いや説明してくれ」
(汝の行く先に興味が湧いた、故に汝の剣に我の魂を移したまでよ)
うん説明されてもわからない。
(汝との戦いは我の500年の退屈を吹き飛ばした、その行く末を見届けてみたいという好奇心が生まれた故この様な形になったという訳だ)
「…いいのかそれで」
(なに、生まれ落ちて1000年以上生きていたのだ、今更逝くのに人の一生分掛かるのを冥界の者共も文句は言うまい)
…まあ本人、いや本竜が言うなら良いのか?
古竜と戦うという目的は果たしたが思いもよらぬ成果となった様だ。
―――――
その後、冒険者の骸からアイテムポーチ、エルグランドの体から素材を回収してから転移陣を見つけだして地上へと戻る。
ちなみに体を解体されたり死体漁りするのに抵抗はないのか聞いてみた所…。
(死ねばそれはただの骨肉であろう、死した者は生きる者の糧となるのが必然、気に病む必要はあるまい)
…との事なのでとりあえず骸に冥福を祈りながらタグやら色々と回収し、一休みして体力と魔力を回復させてから転移陣に乗って今に至ってる訳だが…。
「…?」
ダンジョンから外へ出ると街の方から煙が上がっているのが見えた、それもひとつではなく幾つも上がっている。
「何か起きたのか?」
(レイルよ、眠る前に言っておこう。
もしも竜の力が必要になったら我の血を使え、眼に垂らすなり飲むなりで効果が顕れるだろう)
そう言ってエルグランドは黙りこむ
言われた通り瓶に入れたエルグランドの血を一滴眼に垂らす、じんわりと眼が熱くなると視界が先程より明確になる。
フォルトナールが魔物の群れと冒険者が入り乱れた戦場になっていた。
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