15:誇りと意地

エルグランドの胸の傷から血が噴き出す、レイルは血を頭から浴び、血が入った眼を思わず瞑ってしまう。


その瞬間、レイルにエルグランドの前脚が叩きつけられ壁まで吹き飛ばされ打ちつけられる。


「がっ、は…」


余りの衝撃と激痛に気絶する事すらできない、地面に手をついて痛みに歯を喰い縛りながらエルグランドに顔を向ける。


「やったと、思ったんだけどな…」


「なめるなよ人…いやレイルよ、如何に封じられ飛ぶ力すら失おうと我は竜の長であったのだ、その誇りと魂だけは失わぬ」


強い…。


与えた傷は致命傷だろうにそれでも揺るがない、一種の高潔さすら感じさせる姿は力を失ったなど信じられないほど威厳を示していた。


「レイルよ、我も問おう」


「…なんだ?」


「何故強さを求める?汝ならば一門の英雄に名を連ねる事は容易かろう、それ以上の強さを求める理由はなんだ?」


その問いかけに一瞬だけ沈黙する。


どうして強さを求めるのか、戦うのは何故なのか?それはこの竜からしたらちっぽけなものだろう。


「…残って、いたからだ」


「…」


「この手に、これが残っていたからだ」


それでも、自分にはなによりも命を懸けるに値するものなのだ。


「大切だと思っていた者を失った、繋がっていた縁を自ら切って手放した、それでも…零れ落ちたと思った手の中に剣だけがあった!」


許す道もあったろう、許さずとも全てを切り離さなければ別の幸せがあったかも知れない、だけど裏切られるのが恐ろしくて縁を切る道を選び、失った果てにそれを見つけた。


「失くして、自棄になって、痛みを忘れたいが為にこうなったのかも知れない…それでも、


「この意地を貫けなきゃ生きてるなんて言えないんだよ!!」


自分なんてそんなものだ、戦う理由も最強を求める訳も結局は自己満足エゴに過ぎない。


この竜の様な気高さも誇りもありはしないのだ。


静寂が辺りを支配する、やがて徐にエルグランドが口を開いた。


「意地…それが汝を支えるものか」


血を溢しながらエルグランドが近づいてくる、レイルも剣を引き摺りながら歩く。


お互いの命が届く間合いまで近づいていく、


「互いに譲れぬものがある…ならば我が誇りと汝の意地、どちらが勝るか決しようではないか」


「…なるほど、悪くない」


わずかなやり取り、もはやそれだけで充分だった。


咆哮と共にエルグランドが動く、嵐の様に襲いくる猛攻に残された魔力を使って身体強化を発動して応じる。


両脚から繰り出される爪撃をかわし、尾の一振りを受け流していく。


身体が焼ける様に熱い、眼を始めとして全身が脈打つ感覚が身体がまだ動く、まだ戦えると伝えてくる。


熱くなった眼は魔力集中させてる訳でもないのに動きを捉えられる。


「…その眼は!?」


エルグランドはレイルの眼が変化していることに気付く、金色のになっている事に。


「竜剣術…『穿角せんかく』!」


そして降りかかる爪を潜り抜け、残された魔力を注ぎ込んだ剣は吸い込まれる様にエルグランドの胸に突き立てられる。


やった…そう思った瞬間、限界が来たレイルの意識は闇に落ちた。

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