14:天を斬る者
呆気ないものよな…。
エルグランドは土煙が晴れ、そこに倒れた者を見ながら物思いに耽る。
この地に封印されてからというもの幾度か人が挑んでくる事はあった、なかには500年の退屈を慰めてくれる者もいたが魔術を使った時点で立てる者はいなかった。
(我を封じたあの賢者くらいよな…)
もはやあれほどの者には出会えまい、塞がりつつある前脚を撫でながら魔術を解除しようした瞬間…。
ザリッ
土を掻く音がした。
目を見開き音のした場所を向く、あり得ない、あり得る筈がない、いやそもそもの話が。
(なぜあの一撃を受けて形を保っているのだ!?)
あれは同種すら穿つほどの威力がある、言うなれば対竜魔術とでも言うべきものなのだ、如何に装備を整えようと人の体が耐えれるものではない。
その当然を覆すかの様に倒れていた人、レイルは幽鬼の様に立ち上がり、瞳を炎の様に揺らめかせながらエルグランドを捉えた。
―――――
(装備に助けられたな…)
若干の痺れと体の軋みを感じながらレイルは立ち上がる。
雷そのものはフルフルの皮が、付随する威力と衝撃は『
それでも受けたダメージは少なくないがまだ戦うのに支障はないと判断して剣を構える。
「汝、本当に人族か?」
「?…生まれも育ちも人間だが」
エルグランドがどこか懐疑的な視線を向けながら問いかけてくる、場違いな質問にいぶかしみながらも答えてから剣に魔力を込めていく。
「人族に今の一撃を受けるなど出来ぬ筈だが…いや、今まさに汝が立っている事こそが受け入れねばならぬ事実か」
エルグランドはひとり呟きながらこちらを見据えると目に闘争心を宿して魔力を練りあげる、再び雷雲に魔力が送りこまれて雷が膨れ上がっていく。
「一度はあれど二度はない、この一撃を以て汝を灰塵に帰してくれようぞ!」
エルグランドが言う事に嘘はないだろう、先程より多くの魔力が雷雲に注がれてる。
(…二発目は耐えれないだろうな)
だけど手はある、あれはそれなりの溜めがいるから二発目には猶予がある、そしてそれはあの技を試すには丁度良い。
息を吐き自身の魔力をより深く知覚する、今まで刀身にだけ込めていた魔力を更に注ぎ込む。
身体や剣を依代に魔力を操作するのではなく魔力そのものを自らの意思を以て掌握する。
イメージするのは刃、自身の上に広がる雷雲を斬り裂く極大の剣。
剣から魔力が溢れ出るがそれは霧散する事なく黒い刀身を形作っていく、レイルのイメージを元に魔力は集まり身の丈を超える刃に姿を変えていく。
(これはもう、師匠の剣術じゃないな…)
それにいつまでも我流と呼ぶのは味気ないだろう、だから今ここで自らの剣に名を付けよう。
竜と戦い、竜を殺す事で生まれたレイルだけの剣術、即ち…。
「
雷槌が落とされた瞬間、ソレは放たれる。
魔力で形作られた刀身は黒い三日月の爪牙となって雷槌とぶつかり合う。
白い雷と黒い斬撃が互いを削り合い、空間に衝突音が響き渡り、それに伴って生まれた衝撃波にエルグランドすら爪を立てて踏ん張らねばならぬほどだった。
そして信じられない光景を目の当たりにした。
「馬鹿な!?」
黒い斬撃が雷槌を呑み込み、雷雲を斬り裂いて霧散させてしまったのだ、そして…。
「もらっ…たぁっ!!」
宙を蹴って迫ったレイルが黒刃を振り下ろし、エルグランドの胸元を斬り裂いた…。
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