10:失望
随分とみすぼらしい姿になったな…。
セネクと再会して最初に抱いた感想はそれだった。
装備は今さっきの事もあって薄汚れてるしこいつが気を使っていた髪もぼさぼさだ。
なによりも今のこいつの瞳は内心を映したかの様に澱んでいた。
「随分と驚いてるな?」
「な、なんで…だって未開拓領域に入って死んだんじゃ…」
「生きて帰っただけの話だ、それよりなんでお前がここにいる?」
レイルが抜けた後のパーティーの顛末は聞いている、セネクは事が発覚した翌日に姿を消していたらしいがこの街に流れついていたのか。
「う、うるさい!関係な…がっ!?」
「関係ない…だと?」
セネクが聞き捨てならない言葉を吐きかけた瞬間、首を掴んで体ごと壁に叩きつける。
浮いた足をばたつかせて首を掴む手を剥がそうとするがレイルの身体強化の前には意味を為さない。
「他人の恋人を奪っておいて、関係ないで済ますつもりか!?」
「がっ、はっ!?」
感情が膨れ上がる、力を込めすぎて首を折らない様に自制する。
「お前には、聞きたい事がある…」
落ち着け、これはこの胸につっかえるものを清算する、真実を知れる機会だ。
「なんで…なんでリリアを奪った?俺とリリアがどういう関係だったかはお前だって知ってただろうが?」
手を少し緩めて話せる様にする、するとセネクの目に暗い炎が宿る。
「…から、いいだろ」
「なに?」
「沢山持ってるんだからひとつくらい貰ったっていいだろ!?」
セネクが叫ぶ、だが出てきた言葉は意味不明過ぎて理解が及ばなかった。
「剣の腕も!期待も!信頼も!私が欲しかったなにもかもを持ってるくせに!恵まれてるくせにひとつ取ったくらいで怒ってんじゃねえよ!!」
…要はこういう事だろうか?俺はこいつに嫉妬されていてその当てつけに恋人を奪ったという事だろうか?理解できない精神だ。
理解できるのはこいつが言う事はひどく幼稚なものだという事だけだ。
「そんなくだらない理由であんな事をしでかしたのか…」
「っ!!」
セネクがこちらを睨みつけて懐からナイフを取り出し、首を掴む腕に振り下ろしてくる。
『
「な!?ごばぁっ!!?」
目の前で起きた事に驚くセネクから手を離して顔に拳を叩きこむ、吹き飛んだセネクは路地裏に放置されたゴミに頭から突っ込んで倒れた。
…こんな奴に俺はリリアを奪われたのか。
怒りも呆れすらも通り越して失望の念が沸き上がる、幼稚な理由でやらかしたセネクにも、こんな奴に心動かされたリリアにも、そして自分のあまりの見る目のなさにも失望する。
やはり仲間などいない方が良い、今の自分じゃ心の底から誰かを信頼など、信頼できる人だと見抜く事などできる筈がない。
「殺す価値すらないな、一生そうしてゴミに埋もれてろ」
ゴミにまみれて呻くセネクを見下して路地裏から出る、とっとと宿に戻るとしよう。
こんな奴に思考を割くより次の準備と鍛練に費やした方がずっとましだ…。
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