9:魔女の用件


セラに手を引かれながらギルドを出ると向かったのは少し離れた区画のレストランだった。


それぞれ個室になっており、話の内容が聞かれたりしない様に工夫されてる所からもレイルが普段世話になる様な食事処より値はかなり張るだろう。


「「…」」


テーブルを挟んでお互いに沈黙する、お互い注文をして先に出されたジュースを彼女はちびちびと飲んでいる。


「…セラ」


「ん?」


「…まだ名前言ってなかったから、『氷華の魔女フローズンウィッチ』とも呼ばれてる」


「あぁそうか、俺はレイルだ」


ぎこちない自己紹介をしながら判断する、自分から話を切り出した方がこの子と話すのが建設的だと思い口を開く。


「ところでなんで俺は連れてこられたんだ?」


「貴方に興味があるから」


端的な言葉だった、いきなりそう言われては大抵の男は浮き足立つだろうが自覚はあるのだろうか?


「興味?」


「貴方の魔力操作、どうやって習得したもの?」


「…魔力操作は誰もが使うものだろう」


「違う、他に比べて貴方の魔力操作は格が違い過ぎる、無意識下に漏れでる筈の魔力まで抑えてるなんて見た事も聞いた事もない」


彼女曰く、優れた魔術士でも無意識の内に魔力が零れてしまうものらしい。


そして生み出す、内包する魔力量が多いとそれに比例して顕著になるのだという。


「でも貴方は魔力が零れてない、最初魔力を持ってないと錯覚する程に」


「そういう事か」


「だからどうやってそれほどの操作…制御能力と呼ぶべき?を得たのか知りたい、可能ならば習得したい。」


なるほど、目的は分かったが思わず渋い顔をしてしまう。


その顔をどう認識したのかセラは切り出した。


「もちろんタダでとは言わない、対価はきちんと払う」


「対価?」


「私の意思でなんとかなるものなら差し出せる、お金でもアイテムでも、貴方が望むならパーティーを組んでも良い」


それは魅力的な提案だとは思う、彼女程になれば相当な稼ぎや希少なアイテムも持ってるだろうし、仲間になればこの先のダンジョン攻略も効率は高くなる、客観的に見ればメリットしかない…だが。


「…悪いが断らせてもらう」


レイルは断った、自分の注文した分の代金を置いて席を立つ。


「…これでも強さには自信がある」


「あぁ、君が仲間になれば良い事尽くしだろう」


「なら…」


「でも。」


言い募ろうとするのを遮って答える、心の中で自分を裏切った二人が浮かんでくる。


「信頼ができないのに仲間にはなれない、それに君はこの魔力操作を得てなにをなそうとする?俺や他者を裏切り傷付ける可能性だってある」


裏切られた時の痛みが、苦しさが疑念を掻き立てる、ささくれだった心が深く入り込んできそうになる可能性を拒絶する。


「俺はもう仲間は作らない、強くなるのに…最強になるのに誰かに煩わされたくない」


すまないな、とだけ伝えてレストランを後にした。







―――――


レストランを出て宿への道を歩く、その心の中では罪悪感や自己嫌悪が広がっていた。


(真意を問わなかったのは自分だろうに…)


彼女の申し出を断った申し訳なさや八つ当たりじみた事をした自分に嫌気がする。


…今日はもう寝よう、こんな状況でまともに考えられる筈がない。


だが予想もしない事は禍福を問わずいつだって立て続けに起こるものらしい。


「失せろ自惚れ野郎が!」


人気のない道を歩いていると路地裏から殴られた男が地面に倒れこむ、声の方を見ると鎧に身を包んだガタイの良い男が顔を赤くしながら怒鳴った。


「ここじゃてめぇみてえな実力の野郎はいくらでもいるんだよ!口だけの奴が俺の女に手出そうとしてんじゃねえぞ!てめぇはクビだボケ!」


そう捲し立てた男は仲間を連れて去っていく、そして今立ち上がろうとした男を見て目を見開く。


「なんでお前がここにいる…」


随分と薄汚れた姿となっているが見間違える筈がない、レイルの恋人を奪った男セネクが死人を見た様な顔でこちらを見ていた…。

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