4:フォルトナール


ダンジョンは長い年月を経て魔力が溜まり続ける事で生まれる、ダンジョンと化した場の性質によって生まれる魔物や資源が変わるのだが王国の西には他と比べても多種多様なダンジョンがひしめいているのだ。


それは多くの危険を伴うが言い換えれば資源の宝庫でもあり富と名誉を求めた冒険者達が集まる事で結果的にその者達の活動が西側の魔物の害を抑える形になっている。


故にその街は口さがない者にこう呼ばれる事もある。

欲に駆られた愚者達による砦、フォルトナールと…。






――――


良く言えば活気に溢れている、悪く言えばそこかしこが喧騒で騒がしいのがフォルトナールの第一印象だった。


あちこちで柄の悪い言葉が響いており、中には取っ組み合いが始まってる所もあり治安という意味ではアインツとは遠く及ばない。


まぁレイルが今いるここは荒くれ者が大半の冒険者達が使う施設を一纏めにした区画だからこの状況になるのは必然というべきだろう。


冒険者ギルドに辿り着いて中に入る、どうやら酒場と併設されてる様で昼から騒いで飲んでいる者達も少なからずいる。


「おい小僧、新入りなら挨拶くらいしてったらどうだい?」


気にせず受付に向かおうとすると3人程の冒険者が囲む様に立ち塞がって声を掛けてきた、周りを見るとまたか、といった表情を見せる事からこれは日常茶飯事なのだろう。


「名前はレイル、今日この町に来たばかりなんだ、これで良いか?」


首に吊るしたタグを見せながら通り抜けようとするが肩を掴まれる、心底面倒だった…。


「てめえみてえな小僧が白銀級?いるんだよなタグに色塗って自分を大きく見せようって奴がよ、規定違反だって分かってんのか?」


「…そういう貴方は青銅級か、どうやら腕だけしか磨いてこなかったみたいだな」


「あぁ!?」


肩を掴んだ男が顔に向けて拳を振ってくる、というか自分から絡んできてこの程度の挑発で手を出すとかあまりの沸点の低さに呆れてしまう。


「いっつっ!?」


ガツン、と顔に拳がぶつけられるが『硬身こうしん』を発動して受け止める、男は逆に拳を痛めた様だ。


「さて、一発は一発だよな?」


「へ?ぐぺっ!?」


拳を擦ってる男が顔を上げた瞬間、自分の拳を真正面から叩きこむ、男はカウンターまで吹き飛んで叩きつけられ白目を剥いて気絶してしまった。


…しまった、無意識に身体強化を掛けて殴ってしまった、直前で弱めたが勢いは殺せなかった。


「…で、誰が規定違反だって?」


仕方ない、このまま乗りきろう。


そう問いながら振り返ると他の男達は慌てて気絶した男を連れて建物から出ていってしまった。


頬を掻きながら受付に向かっていくと壮年の職員がどこか良くやったみたいな顔しながら用件を聞いてきたので肩を竦めながらこの街やダンジョンに関しての情報や説明を求める事にした。








―――――


「兄ちゃん中々やるじゃねえか」


説明を受けて潜るダンジョンを考えていると髭面の冒険者に声を掛けられた、悪意や敵意は感じないので普通に答える。


「あぁ、騒いですまなかったな」


「ここじゃ喧嘩は日常茶飯事だ、それにあいつらは最近はああして絡む事ばかりだったからよ、むしろ良い薬だろうさ」


昔はあんなじゃなかったんだがな、と呟きながら髭面の冒険者は切り替える様に話す。


「俺はザジだ、なにはともあれようこそフォルトナールへ」


「レイルだ、よろしく頼むよ」


「あぁ、しかしあんな光景はセラの時以来だな」


「セラ?」


おうよ、と言いながらザジは話し出した。


「この街じゃ有名な単独ソロ冒険者でな、まだ20にもなってねえのに白銀級になった魔術士の娘だ、特に氷魔術に関しちゃ街一番でしかも美少女と来たもんだ」


「…?それだったら何処かのパーティーに所属しててもおかしくないんじゃないか?」


「それが気難しいのか誰とも組まなくてな、以前無理矢理勧誘しようとした奴が股間を凍らされて不能になって以来誰も誘わなくなっちまった、ついた渾名が『氷華の魔女フローズンウィッチ』」


こえぇだろ?と話しているとギルドに誰かが入ってくる。


「噂をすればってか、あれがセラだ」


そう言われて見てみるとそこには白と青を基調としたローブを纏った少女がいた。


透明感のある銀髪は腰まである長さも相まってヴェールの様に見える、氷細工の様に整った容姿にアイスブルーの瞳は見惚れる程に綺麗だ。


なによりも今まで見てきた中でも一際凄まじい魔力が彼女を『氷華の魔女』だと物語っていた。

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