3:身体強化の真髄


結論から言えばフォルトナールには徒歩で向かう事になった、直通の馬車がなく王都経由するくらいなら今のレイルはそのまま向かった方が早いと判断したからだ。


身体強化を掛けて森を駆けていく、レイルの眼からは魔力の光が灯りながら流れる様に木々を走り抜けていく。


(確証はなかったが当たったな)


レイルは魔力操作によって身体強化を眼に集中して掛けている、ドラゴンとの戦い以降から身体強化の真髄に気付いた。


身体強化は魔力で肉体の強度を高めるだけだと思っていたがそれだけじゃない。


強度を高めるだけでなく魔力を集中させる事で通常より集中させた箇所の能力が高まる、今の様に眼であれば動体視力や処理能力を向上させる事で高速で森を駆け抜ける事も出来る。


そしてそれは眼だけではない。


「…っ!」


耳や鼻に魔力を集中させるとより遠くの音や匂いが分かり、探知元のある程度の情報の判別も出来る様になった。


(少し離れた先にオーク、数は四か...)


オークは体長2m程の人型の魔物だ、人を好んで襲う習性があり、群れとなれば村ひとつを滅ぼした事例もある。


(見逃すのは危険だな、それに試したかった事もある…)


木に登り木々を飛び移ってオークの元に向かう、少しして群れて森の中を歩くオークを確認すると足に魔力を込めて木を蹴って跳び、最後尾にいる個体の首に向けて蹴りを放つ。


「ゴゥッ!?」


衝撃音を放ちながらオークの体が横に倒れる、首の骨を砕く感触を感じながら着地すると気付いた他のオークがそれぞれ武器を抜いて襲いかかる。


オークが棍棒を振り上げる。


振り下ろされる寸前に懐に踏み込み、迫ってきたオークの顔に魔力を集中させた掌底を放つと顎が砕かれ、血を撒き散らして仰向けに倒れる。


(素手は問題なし、次は...)


大鉈を持ったオークが横薙ぎを放ってくる、横薙ぎに合わせて左腕を前に出す。


硬質なものをぶつけたかの様な音が響く、大鉈を弾いた左腕からうっすらと血が流しながら右腕で剣を抜き放ち、オークの喉を斬り裂く。


(咄嗟の防御はまだまだだな...)


攻撃を受ける箇所にピンポイントで魔力を集中させる事でその箇所を硬化する、『硬身こうしん』とでも名付けようか。


全身で発動すると効果が薄まる上に動けなくなるなど欠点もあるがそれを差し引いても有用だろう。


最後のオークは背を向けて逃げ出していた、その背を見据えて剣を構える、魔力を腕に貯めていき、振り抜く寸前で魔力を刃に流して解き放つ。


我流剣術『疾爪しっそう


解き放たれた魔力は斬撃となりオークは背から袈裟斬りになって絶命し倒れこむ。


「…予想以上だな」


剣を納めて討伐証明部位を採取すると死体をどけておく、理由はまだ解明されてないが魔物は死ぬと採取したもの以外はしばらくすると消える、魔物を構成してるものが世界に還っていると唱えた者がいたが真相は未だ分からないままだ。


…まあ魔物に関してはともかくおおよその試したい事は試せた、魔力操作による身体強化のみならず自分の剣術をより上に高める事が出来ると実証できた事に思わず拳を握って喜びの笑みを浮かべてしまう。


「これを極めれば、今よりも強くなれる…」


そう確信したレイルは久しぶりに喜びと高揚感を覚えながらフォルトナールに向かっていった。

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