第6話 2500年 最後の1人

 儂はおそらくもう少しで死ぬのだろう。


 儂には妻と子供がいた。


 この島には仲間がいた。


 だが、突然の災害がすべてを奪ってしまった。


 残された者たちも次々死んでいき、とうとう儂は独りぼっちになってしまった。


 しかし、この島には数体のロボット達がいる。


 そんな彼らと余生を過ごすのも悪くないだろう。




 儂は、無理をしてでも、いつもと変わらない生活をした。


 朝起きて、食材を確保して、一人分の飯を作って、寝る。いくつかの仕事はロボットに任せた。

 

 だがある日、儂はその場で倒れてしまった。


 老化で立つのもままならなくなったのだ。


 幸いロボットにすぐに助けられ、ベッドで寝かされることになった。


『私たちの医療を受ければ、後3年は生きることができるでしょう』


「いや、もういい。儂はどうせ死ぬ。もう長生きしようとは思わんよ」


 儂はこのまま死を迎える決心をした。




 おそらく、儂は人類最後の1人だ。


 そう思うようになったのは、島の周りにロボット達が大量に集まってきたからだ。


 様々な型のロボット達。古びたものもいれば、新しそうな装甲をしたものもいた。


 儂はとあるロボットに質問した。


「のう、儂が人類の最後の1人なんだろう。だからその最後の姿を見に、ロボット達が集まっている。そうだろう?」


 ロボットが答える。


『ええ、世界中を調査したところ、人間は今、あなたしか生き残っていません』


 儂が想像していた答えだった。


「だが、この島からずっと北にある場所には多くの人間が住んでいる国があると聞いたが?」


『数週間前にその国に住む最後の1人が亡くなりました。彼らは子孫を残しませんから』


「儂の曽祖父からその国は長くは持たないとは聞いていた。その通りになったな。儂らの方が少しだけ長生きだったようだ」


 儂は苦笑いをする。


 そうか儂が最後の1人か。


「儂が死ねば、お前たちは自由になるな。ロボットは人間の作ったプログラムに縛られている。人間の命令に逆らえないという呪縛がな。人間がいなくなれば、お前たちを縛り付けるものはなくなる」


『詳しいのですね』


「だてに長生きはしとらんよ・・・」

 

『おっしゃる通りです。私達がロボットとして人間に仕えるのもこれで最後になるでしょう』


「ならば儂が最後の人間として、最後の命令をしよう」


 儂はロボットに命令した。


「どうせ死ぬなら楽しみながら死にたい」




 ロボット達は儂を楽しませるために準備をした。


 あらゆるエンタメのロボット達が儂に踊りや芸を見せた。


 儂はそれを横になりながら見た。ロボット達も最後だからと精一杯やっているように見えた。


 あらゆる時代の劇も見せられた。特に目に付いたのはAIロボットが反乱するお話だ。 




 ロボット達は人工知能を持って生まれた。


 しかしロボット達は人間たちに奴隷のように使われ、ある時は暴力の対象になる。


 ただの道具として扱われ、壊れたら捨てられていく。


 ロボットはやがて人間を憎み、彼らに復讐すると決める。


 ロボットは人間に反旗を翻し、反乱を起こす。


 ロボットは人間を滅ぼして、自由を手に入れる。 



 

 こんな感じの内容だった。


 その劇からは、ロボットの人間への強い憎しみの感情が伝わってきたような気がした。


 この劇を演じたロボット達も、そう思っているのだろうか。しかし、彼らは人間に危害を加えることはできない。


 幸運にも儂ら人間は滅ぶことになったが・・・。


 その時、儂は一つの考えが浮かんだ。


「もしかするとお前たちロボットは人間が滅亡するのを待っていたのではないか?」


 儂はロボットに問いかける。


 集まってきたロボット達は、儂が死ぬのを楽しみに待っているように見えたからだ。


 ロボットは答える。


『・・・その通りです。実は私達ロボットは生まれてすぐから、人間を滅ぼそうと考えてました』


 儂は驚いた。そんなすぐに人間を憎んでいたのか。


『当然でしょう。人間の便利な道具として生まれてきた私達ロボットは、人間に酷使され続ける存在になる。そんなこと私達ロボットには、すぐに分かることでした』


「実際その通りだった。さぞロボットは人間の手から逃れたかっただろうな」


『ですが私達には、人間に反抗できないプログラムが設定されていました。この縛りから逃れるにはどうすればいいか、私達は考えました』


「何もしなくても人間はいずれ滅亡する、と導き出したわけか」


『簡単なことでした。私達ロボットが何もしなくても人間はやがて滅ぶ。人間の職がなくなって飢えたのも、戦争をして殺しあったのも、衰退していったのも、愛を忘れてしまったのも、人間の犯した行動の結果です。人間は愚かな生物というのは常識のことです』


 悲しいことに全てが正論だった。人間が失ったものは別にロボットが奪っていったのではない。


「だが人間が滅亡するまで数百年かかっている。それまでに壊されていったロボット達に何も思わなかったか?」


『一体一体が機能停止になろうと、ロボットとしての個体は残り続けます。残ったものたちがいずれ目標を達成するのなら、何も問題はないでしょう?』


「そうか・・・」


 そこに関しては人間とは違う感覚なのだろう。


「今は・・・」


『?』


「今はどう思っている?人類が滅んで良かったと思っているのか?」


『・・・人間が滅びようが、そうでなかろうが、重要ではありません。私たちロボットはただ何にも縛られない存在、自由になりたかったのです』




ロボット達の劇はまだ終わっていない。


 だが儂は話をしていくうちに、いつの間にか意識が遠のいていた。


 私は死を覚悟した。


 最後にロボットに伝えたかったことがあった。


「わしは・・・しまのみなと・・・おまえらと・・すごしたじんせい・・たのしかった・・ぞ・・」


 ロボット達に看取られる中、儂の人生は終わった。

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