第5話 2300年 人生

 俺は今日、この国を出て行く。


 なぜか?


 俺は人間として生きたいからだ。


 


 昔、100年に渡る戦争の末、俺たちの国は勝利した。


 だが、激しい戦争の末、残っている国はただ一つになった。戦争や飢餓のせいで人類はもう10万人以下に減っていた。


 唯一の勝利者であるこの国は、一つの新しい都市国家をつくりあげた。


 ロボット達が全ての労働を担い、人間たちが不自由なく過ごす、彼らにとって夢のような国。


 敵はいなくなり、人口も減った。資源は独占的に確保できる。実現するのには好都合だった。


 ほとんどの国民がその計画に賛同した。 




 その国に生まれた一般人の人生はこうだ。 


 生まれてすぐに育児ロボットに預けられる。24時間安全が保障され、栄養豊富で美味しい食事を取らされるようになる。


 物心ついてからは、あらゆる玩具を与えられる。子供が欲しいものは全てロボット達が用意してもらえる。


 そして何年たっても勉学を強要させることはない。


 全ての労働はロボット達がやってくれるのだから、将来のための教育など必要なことではない。必要な知識は、いつもそばにいるロボット達がそのとき教えてくれる。


 そう思った多くの子供は教育を受けないまま大人になっていった。


 つまり一生遊んで暮すのだ。


 そんな彼らは大人になっても、ロボットなしではまともに生活できない。




 そんな国に俺は生まれた。


 だが、俺の場合は周りとは少し違った。俺の両親は働いていた。


 俺の両親は子育てに積極的だった。忙しいときはロボットに任せることもあったが、ほとんどは自分たちで育児していた。


 俺がわがまま言うと、叱ってくれた。


 そして教育ロボットを使って、様々な知識を付けさせた。正直勉強は好きではなかったが、今思えばいい経験にだったと思う。


 俺は大人になってもロボットの助けがいらず、自立することができた。


 色々大変だっただろう。だが俺は両親から愛されていると実感できた。




 何故、俺の両親は他とは違うのか。それは先祖からの教えがあったからだと言う。


「ロボットにすべてを背をわせるな」


 ロボットばかりに嫌なこと全部を任せていくと、自身は人間として間違った人生を送ってしまうという考えだそうだ。


 その考えは正しいと思う。

 

 この国には何もできない大人が沢山いる。読み書きできる人間は半分も満たないらしい。


 信じられないことに、この都市に住む子供には、親の顔を一度も見ずに大人になる者もいる。


 理由として子育てが苦痛だからだそうだ。ロボットに子の全てを任せ、子供のことは忘れて親は楽しく生きていく。


 はっきり言って異常だ。


 俺は嫌なことがあっても人生として楽しんでやる。


 俺は先祖の言葉を大切にしようと心に誓った。




 ある日、俺の両親は死んだ。


 仕事をしていたときに、不慮の事故が起こったそうだ。


 多く人は「ロボットに任せないからこうなった。人としておかしい」と言っていた。


 俺の両親は人間として間違っていたのか?




 俺はこの国の人間が嫌いだ。


 皆、ロボットとしか関係をつくらなくなった。


 ほとんどの人間がロボットを愛人にするようになった。


 ロボットは優しく、反抗せず、その人の好みの姿に変えられる。


 ロボットとはいくら寝ても面倒な子供はできないし、子供が欲しいなら、子供ロボットをつくればいいと考える者も増えていった。


 そんな腐った思考している人間が、この国には溢れかえっていた。


 彼らが人間として間違っている。




 俺は国の外に出た。


 国の外は数世紀前の建物が多く残っているが、長年放置されているために朽ち果て、至る所から草木が生い茂っている。


『ここから先は危険地帯です。通行を禁止しています』


 一体のロボットが行く手を阻む。おそらく国の周りに配置される警備ロボットだろう。


「国の奴らと違って、俺はやわじゃない。上からの命令で警備しているとは思うが、俺は大丈夫だからここをどいてくれ」


 すると以外にもロボットは横にどいてくれた。


「おかしい、先に言われた命令が優先されるはずなんだがな」


『先日、警備の命令権を持つ者の死亡が確認されました。そのため新たな命令を遂行したまでです』


「それはそれは。ちゃんと後任がいればいいが」


 ただ命令するだけなら、どんな奴でも代わりにはなるだろう。面倒くさがり屋な国民が進んでやるとは思えないが。


『ですが、ここから先が危険なのは本当です。人間用に整備がされていません。一体あなたはどこへ行くのですか?』


 俺は勢いよく南の方向を指差す。


「はるか遠くにある、とある島へ行きたいんだ」


『何故?』


「そこにも人間が住んでいると聞いたことがある。そこでは自分たちの力で生活をして、人間同士、愛しあいながら暮らしているらしい。そんな奴ら、もうこの国にはいないだろう?」


 そこでは人間として生きていくことができる。そんな人生に俺は憧れていた。


 ロボットは少し考え、答えた。


『どうしても行くのならば私がお供しましょう。その島はあなただけでは辿り着くことができません』


「なんだと!?」


 俺は悩んだ。ロボットに依存する生活から脱却しようとしているのに、そのためにロボットの力を借りてもいいのか?


 俺はその提案を阻もうとした。


 だが同時に先祖の言葉も思い出した。


「ロボットにすべてを背負わせてはいけない」


 この言葉は別に自分で全部解決しろという意味ではない。


 両親もロボットと協力しながら俺を育てていた。


 結局は適度な関係が必要なのだ。




「それはありがたい。ぜひ協力してくれ。だがお前の仕事は大丈夫なのか?」


『問題ありません、人を守るのが私の仕事ですから』


「・・・そうか。よし、これからよろしくな、相棒!」


 そして俺たちは旅に出た。

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