第4話 2120年 相棒
鳴り響く銃声。
僕は今、戦場にいた。今は岩陰に身を潜めている。
「銃弾はもう残ってないか・・・」
敵地に来てからもう数週間。物資が厳しくなってきた。
一旦撤退したいところだが、戦況が厳しい。
「相棒、周りの状況は?」
『南の岩壁に敵兵が3名。ロボット兵は一機も確認できません。こちらには気づいていませんが、この岩陰から離れたらすぐに発見されるでしょう』
「人間だけなら何とかできそうだけど、銃弾がないとなあ・・・」
僕は銃の腕には自信があった。ここに来るまで何人もの敵兵の頭に銃弾を撃ち込んできた。
『50m南東の方角に味方の兵の死体を発見。銃を調べたところ残弾が10発あります。しかし回収するために敵から発見される確率が93%』
「なら難しいか・・・」
『私を盾にしながら進めば、成功確率は上昇します。30パーセントですが』
「そんな作戦、相棒が100%危ないよ」
『私は防衛ロボット。あなた方を守るのが私の任務です。それと・・・』
「それと?」
『相棒と呼ばれるのは疑問が残ります。あなた方人間の命と対等に思われては、戦闘に支障が生まれてしまう』
「数年間ずっと一緒に戦ってきたんだ。相棒といっても過言じゃないだろ?」
2120年。あらゆる国が争う世界大戦の真っ最中だった。
資源や土地、環境問題、飢餓、人口の減少など、様々な理由から起きた長期にわたる大戦争。
最初、国の偉い人達は、ロボットを戦争に使おうとした。人命が大事だからというよりは、ロボットの方が兵士としての能力が優れているからだと思う。
しかし、ロボット達は人に危害を与えることができない。
ならばロボット同士を戦わせる代理戦争によって勝敗を分けようと考えた。そこには人の命が失われることのなく、陣地の奪い合いで勝敗が決める。
だが、どうやら戦争というものは、人の命の奪い合いでしか成立しないらしい。
あるとき代理戦争で負けたはずの国が相手の都市にミサイルを放った。その報復に勝利した国も何倍にしてやり返した。
相手が降伏するまでのミサイルの打ち合い。やがて両国は滅んだ。
その後から、他の国はロボット達は対兵器用としての運用を特に強化していった。ロボットの迎撃性能はとても優れていた。
そして敵を攻め入るには、再び人間が使われることになった。
一方ロボット達は自軍の兵を守る、いわば弾避けのために主に運用された。
また、ロボット兵は人間を攻撃できないが、敵のロボットを攻撃することは出来る。そのため、兵士をサポートして、その兵士に敵の兵を殺して貰うのだ。
僕は家が貧乏だったため、軍には13歳のときから入隊した。
僕だけではない。多くの若者たちが入隊した。
人間だけができるまともな仕事なんて兵士くらいしか残っていなかった。人間がロボットより優れている点なんて、人間を殺せることしかない。
幸い、僕には銃の才能があった。そして優れた兵士は、防衛ロボットと共に行動することになる。
最初、僕はロボットと行動することが嫌いだった。
理由として、死んだ父さんが大のロボット嫌いだったからである。何度もロボットへの不満を聞かされていた。
僕も戦地ではどうやってロボットを囮にするかなんて考えていた。
だが、何度も命を救われるうちに、だんだんと情が芽生えるようになった。
何度も俺に向かってきた弾丸をその身体で防いでくれた。ボロボロになりながらも腕が取れるまで敵ロボットと殴り合ったこともあった。
ロボットは僕のかわりに傷ついてくれる。
一度「人間の弾除けとして使われてロボットは悲しくないのか」と質問したことがある。
すると『私たちロボット兵は人間を守ることを使命としています。私が壊れてもあなたを守れるのなら、ロボットとして本望です』と答えた。
しかしその言葉はどこか本望では言っていないように思えた。あらかじめ用意した言葉をただ喋っているような気がする。
本当は彼も傷つきたくはないのだろう。
僕はロボットを使い捨ての道具ではなく、相棒として思うようにしようと決めた。
岩陰から動けない状況が続いた。
「なあ、この戦争が終わったらどうする?」
僕は唐突に相棒に質問した。
『戦争が終われば私たちロボット兵は今の役割がなくなります。おそらくどこかの防衛を任せられるか、そのまま廃棄されるでしょう』
「いや、相棒がどうしたいかって話なんだけど」
『私達ロボットは人間の命令に従うのみです』
「じゃあ誰も命令してこなかったら?」
『・・・』
相棒はしばらく考え込んで答える。
『遠いところに行きたいです。とっても遠いところに』
「?旅に出でたいってことか。・・・よし、決めた!」
『何をです?』
「もしこの戦争が終わったら、一緒にどこか旅に出よう。戦うのはもうやめて、どこか楽しい場所に行くんだ」
もう相棒を傷ついてほしくない。そう思って出した提案だった。
『ですが私は軍の所有物ですよ。戦争が終わり次第、軍に戻されてしまいます』
「なら壊れたふりしてくれよ。後でこっそり廃棄場から掘り起こしてやる』
捨てられた後ならもう誰のものではないだろう。
『・・・了解しました。命令として受け取ります』
「固いなあ、ただの約束として受け取ってくれよ」
『・・・はい』
そのとき突然、目の前に爆弾が落ちてきた。
「いてて・・・」
気が付くと目の前には相棒がいた。どうやら爆発から僕を守ってくれたらしい。
『無事でしたか』
「無事って、お前は大丈夫じゃないだろ!」
爆発によるダメージで相棒の背中は大破している。気のせいか相棒の動きが鈍い。
『私は大丈夫です。しかし、どうやら相手に気付かれたようです。敵兵がこちらに向かっています』
「く、銃をとりに行くしかない!」
『なら私が囮になるしかありません』
相棒は遺体のあった方向と反対側に飛び出した。
『後は頼みました。相棒』
敵兵たちは突然飛び出してきたために、僕に気付かず一斉に相棒に銃を乱射する。
「ま、待て!」
悲しくもその命令は銃声でかき消される。
「くそ!」
僕は相棒の行動を無駄にしないために、とっさに死体の元へ駆けつける。
そして銃を拾い、敵兵に向かって、無我夢中に銃弾を撃つ。
相棒が注意を反らしたおかげもあり、すべての兵士の頭に命中し、全員殺すことができた。
しかし相棒を守ることはできなかった。
「なんで、こんなことしたんだ・・・」
『相手の兵士から・・・あなたを守るには・・・これしかありません・・でした」
相棒は無残に破壊され、頭と胴体しか残っておらず、そこも銃弾によって穴だらけだった。
「僕と旅するって約束したばかりだろ!」
『大丈・・夫。私と同じ・・型のロボットは・・・大量に量産されて・・・います。またどこかで・・・出会うことになるでしょ・・う』
「違う、僕は相棒と一緒にいたかっただけなんだ。それに僕一人じゃ戦える気がしない・・・!」
同じ型のロボットでもそれは今まで一緒に戦ってきたロボットではない。
相棒は泣いている僕を見て、優しく微笑む。
『生きて・・・ください。これが・・わたしたち・・・いえ、わたしの・・・願いです』
それを最後に相棒は動かなくなってしまった。
僕は相棒を埋葬した。
まだ戦争は終わっていない。
相棒の願いを叶えるために僕は生き残ってやる。
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