286話「自堕落」
暑い……ただただ暑い……。
自室で一人横になりながら、俺は真夏の暑すぎる気温にウンザリする。
もちろん、部屋のクーラーは付けている。
だがそれでも、家の壁を貫通して侵略してくる外の熱気は、涼しさの中にも確実に潜んでいるのである。
これも温暖化の影響なのかなぁと一人ぼやきながら、俺はスマホを手にする。
スマホをタップし開くのは、有名なゲームアプリ。
キャラを引っ張り弾いてモンスターに当てる、きっと誰でも楽しめるであろう人気ゲームだ。
自室でグータラ過ごしているが、今は夏休み。
こうしてただ自堕落に過ごす日があったっていいじゃないかと自分に言い聞かせながら、俺はそのままゲームを楽しむことにした。
外からは、セミの鳴き声が聞こえてくる。
これも夏の風物詩と思えば、ミンミンと煩いようでそれ程嫌でもない。
少し前に二年生に進級したような気がするけれど、気づけばもう夏なのである。
そして今は夏休み、俺はしーちゃんや孝之達と色々遊ぶ約束をしている。
それは本当に楽しみだし、その日が来るのを楽しみに待っている。
だからこそ、こういう何もない日は省エネに過ごすのだ。
人生何事もメリハリが大切。
楽しむべき時を楽しむために、こうした休息も必要なのだ。
そう自分で納得をしつつ、俺はそれからも自室で横になりながらゲームで遊んだり漫画を読んだり、気が済むまで自由に過ごすのであった。
◇
時計を見れば、夜の六時を回っていた。
窓の外に目を向けると、まだ外は明るい。
そのせいもあってか、どうやら思った以上に時間は経っていたようだ。
散々グータラ過ごしてみた俺は、もうゲームも漫画もお腹いっぱい。
となると、することもなくなってしまう。
その結果、俺の気がどこに向かうのかといえば、それはやっぱり彼女であるしーちゃんのことだった。
俺はスマホを手にするが、しーちゃんからの連絡はない。
ほとんどの場合、思えばしーちゃんから連絡をくれることが多かった。
でも今日は連絡がきてはおらず、珍しさも相まって俺はしーちゃんのことが気になりだしてしまう。
「今、何してるんだろう……」
気になった俺は、Limeを送ってみることにした。
しかし、連絡してみてから五分、十分経っても返事はこない。
まぁ何かしているのだろうと思い、とりあえず俺は夕飯とお風呂を済ませることにした。
しかし、夕飯を済まし、お風呂からあがってきてみても、しーちゃんからの連絡は返ってきていなかった。
Limeを送ってから、おおよそ二時間は経っている。
それなのに連絡がないことに、俺は何とも言い難い不安に襲われる。
しーちゃんは一人暮らし中なのだ。
もしかしたら、何かあるとも限らないのである。
そう思ったら、どんどん思考はネガティブに傾いていく。
だから俺は、催促するようで申し訳なさを感じつつも、心配から通話をしてみることにした。
「もしもし、たっくん?」
「あ、しーちゃん、良かった」
中々電話に出ず、通話を切ろうとする直前にしーちゃんは通話に出てくれた。
「え、良かったって?」
「ああ、ごめん、Lime送ったけど返事がなかったからさ」
「え!? ごめんね! ちょっと今日は立て込んでて」
どうやら本当にスマホは見ていなかったようで、しーちゃんは慌てて申し訳なさそうに謝ってくる。
とりあえず、しーちゃんが無事で変わらないことを確認できた俺は、ほっと一息つく。
そして安心した俺は、それならば今しーちゃんが何をしているのか気になってしまう。
「そっか、まぁ無事なら良かった。今日は何してたの?」
「あ、今日はね、ママが家に来てくれてるの」
なるほど、お母さんか。
しーちゃんは一人暮らしをしていることだし、家族と過ごす時間は大切。
だったら俺のことなんて二の次で構わないから、家族水入らずで楽しんでほしいと思う。
「なるほどね、邪魔してごめんね」
「ううん、大丈夫だよ。連絡くれてありがとうね」
スマホ越しに聞こえてくる、嬉しそうなしーちゃんの声。
その声が聞けただけでも、もう俺の心は満たされてしまう。
「あ、そうだたっくん!」
するとしーちゃんが、何か思い出したように声を弾ませる。
「ん、どうした?」
「今度、たっくんにプレゼントしたいものがありますっ!」
「プレゼント?」
「そう! 今日ママと一緒に買ってきたんだ! 何を買ってきたかは、当日のお楽しみだよ~」
「分かったよ、じゃあ楽しみにしておくよ」
「うん! そうして!」
こうして、何やらプレゼントを用意してくれているというしーちゃんとの通話を終える。
一体何をくれるのかはわからないが、しーちゃんから貰えるものなら何だって嬉しい。
すると、スマホに一件のLime通知が届く。
確認するとそれは、さきほど通話したしーちゃんからのものだった。
しかもそれは、メッセージではなく画像が送られてきていた。
気になった俺は、すぐにLimeを開く。
するとそれは、電話を終えてすぐに撮ったのであろう、しーちゃんのお母さんとのツーショット写真だった。
二人とも幸せそうに微笑んでおり、紛れもなくそれは温かい家族の写真。
そんな、見ているだけでこっちまで温かい気持ちになれるツーショット写真を、俺は今回もちゃんと三回保存させてもらう。
そして気付けばもう、すぐにでもしーちゃんに会いたい気持ちでいっぱいになってしまっているのであった。
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<あとがき>
クラきょど3巻、8月19日に発売となりました!
3巻は、3章の文化祭のところです!
書籍化に合わせて、かなり加筆修正はしたのでWeb以上に改めて楽しんでいただけると思います!
また店舗特典には、コミカライズしている序盤のしーちゃん視点を沢山書かせていただきました!
ある意味、過去のシーンの答え合わせでもあるので、良ければそちらも楽しんでいただけると嬉しいです!!
以上、どうぞ書籍の方でもクラきょどをよろしくお願いします!!(続刊したい!!w)
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