282話「水入らず」
次の日。
今日はバイトも休みのため、家でゴロゴロしようかと思っていたのだが、出掛けることになった俺は早起きして支度をする。
ちなみに今日はこれから、孝之と一緒に遊びに出掛ける予定だ。
昨晩孝之とLimeしていた流れで、今日遊ぶことになったのだ。
俺も孝之も、今ではお互いに彼女持ち。
思えば、中々二人で遊ぶことも少なくなってたよなという会話からの、じゃあ早速明日遊ぼうぜという話にまとまったのである。
そんなわけで、家を出た俺は待ち合わせの駅へと向かう。
孝之とは幼馴染のため、もっと近所で待ち合せても良かったのだが、今日の目的地は少し遠出をするため駅で待ち合せることにした。
約束の時間より早く駅へ到着すると、まだ孝之の姿はなかった。
孝之が時間ピッタリにやってくる性格なことは分かっているため、俺はスマホをいじりながら来るのを待つことにした。
そして待つこと十分少々、遅れて孝之が駅へとやってきた。
「よっ! わりぃお待たせ」
「大丈夫だよ」
こうして休日に二人で会うのは久しぶりのため、お互い少し照れ臭いような変な感じがしてくる。
それでも、しーちゃんと出掛けるのとはまた違った楽しみがあるというか、男同士水入らずで遊びに出掛けるのは気楽でいい。
そんなわけで、合流した俺達は電車に乗り込むと、本日の目的地へと一緒に向かうことにした。
「しかし、買い物でこんなに遠出するのは初めてだな」
「あはは、まぁそうだろうな」
電車に揺られながら、少しワクワクした様子の孝之。
これから一緒に、都心部へ出掛けることを楽しみにしてくれているようだ。
そう、これから孝之と向かう先。それは、ケンちゃんのお店。
孝之も清水さんのため、もっとかっこよくありたいという話からの、だったら一緒に服を買いに行こうという話になったのである。
俺がケンちゃんのお店で服を買うようになってから、実は俺のファッションの変化について孝之はずっと気になっていたようで、俺と同じところで買いたいと言ってきたのだ。
その結果、今こうして一緒に都会へ向かって電車に揺られているのである。
そんなこんなで、ようやく到着したケンちゃんのお店の最寄り駅。
相変わらずの人混みで、油断するとすぐ迷子になってしまうような複雑な構造をした駅。
孝之も慣れていないようで、慣れない人混みに若干テンパりながらも、俺に全てを委ねていた。
「ねぇ見てあの人、イケメンじゃない?」
「わ、本当だ。背も高いね」
通りすがりの女子達から、そんな会話が聞こえてくる。
ちらりと横目で見れば、彼女達は孝之を見ながら会話しているのが分かった。
確かに孝之は、背が高いしイケメンだし、オマケにバスケも超上手い。
だからこそ、清水さんという素敵な彼女もいるわけで、俺だって女ならきっと惚れているに違いないほどナイスガイなのである。
こんな都会でも、親友が見ず知らずの人に褒められていることが嬉しくて、俺も勝手に鼻が高くなってくる。
「どこもかしこも、すげぇ人だな」
しかし、当の本人にはそんな声は一切届いていないようで、この都会にも慣れてきたのか周囲を物珍しそうにキョロキョロと見回しているのであった。
◇
「着いたよ」
そう言って俺は、駅から少し歩いた先に在る、相変わらずお洒落な外観をしたお店の前で立ち止まる。
「え、こ、ここなのか?」
「うん、入ろうか」
「お、おう!」
こういうところは慣れていないのだろう、おどおどした様子の孝之。
そんな反応に、俺は初めてしーちゃんにここへ連れて来られた時のことを思い出し笑いが込み上げてくる。
俺も最初は同じだったし、随分変わったものだよなと自覚をしながら、お店の扉をあける。
「いらっしゃーい。って、あらあら、卓也くんじゃない」
店内で出迎えてくれたのはケンちゃん。
相変わらずお洒落なケンちゃんは、俺に気付くなり嬉しそうにこちらへ近付いてくる。
「そちらは? お友達?」
「はい、幼馴染の孝之です」
「ど、どもっす」
「あらまぁ、幼馴染! いいわね、じゃあこっちへいらっしゃいな!」
若干ケンちゃんの圧に怯える孝之を、興味津々な様子でメンズ服の方へ招き入れるケンちゃん。
そんなこんなで、早速ケンちゃんによる孝之コーディネートが始まるのであった。
「……あなた、背も高いしイケメンだし、普通に芸能界でもやっていけるんじゃない?」
孝之の背中にTシャツを合わせながら、冗談ではなさそうなトーンで呟くケンちゃん。
そんなケンちゃんの言葉に、「いやいや俺なんか」と謙遜する孝之。
ただ、ケンちゃんは本物の業界人。
そして俺から見ても、孝之なら全然テレビの向こうの芸能人とも遜色ないと思っているから、全然有り得る話だと思っている。
「よし、じゃあここは、ガチンココーディネートしちゃいましょうね!」
孝之のモデル顔負けなルックスを前に、どうやらケンちゃんのコーディネーター魂に火が付いたようだ。
やる気に満ち溢れたケンちゃんは、真剣に服をチョイスし始める。
こうして俺の時と同じように、孝之もまたケンちゃんの圧倒的センスにより生まれ変わろうとしているのであった――。
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<あとがき>
やってきたのは、ケンちゃんのお店でしたー!
本日、クラきょどのコミカライズ版の第2話が更新されています!
まだの方は、是非楽しんでくださいね!
時間が経つと無料で読めなくなるかもしれないので、お気に入りしておいてもらえるといいかもです!
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