281話「バイトと美少女」
夏休みになって、今日は初のバイト出勤日。
かれこれもう一年以上続けているこのコンビニバイト、今ではすっかり慣れたもので、今日も一人で店の品出しから何までこなしている。
そんなわけで、今日も昼間からせっせとバイトを頑張っているわけだが、生憎学生は休みでも世間は平日。
お客さんの数も少なく、俺は暇になりつつもレジ周りを片付けながらお客さんが来るのを待つしかなかった。
ピロリロリーン。
「いらっしゃいませー」
久々にやってきたお客様に、俺はやっと仕事だと気合いを入れながら挨拶をする。
するとそこには、しーちゃんと清水さん二人の姿があった。
「はーい、いらっしゃいましたー!」
「どうも」
二人とも、当たり前だが制服ではなく私服姿で、そんな学年の二大美女と言われる美少女二人が突然現れたことに、驚きと嬉しさを隠せない俺。
「ビックリした。いらっしゃい」
「えへへ、今日はさくちゃんとお買い物してきたんだ」
そう言ってしーちゃんは、手に持った買い物袋を見せてくれる。
どうやら二人で洋服を買ってきたようで、楽しそうに微笑み合っている。
バイト中に、そんな美少女二人の姿を見られるだけで、何だか物凄く得したような気持ちにさせられてしまう。
そんなわけで、二人でバイト先のコンビニまで顔を出してくれたことに喜びを抱きつつ、俺は買い物する二人の姿を目で追った。
並べられた商品を見ながら、何やら楽しそうに会話している二人。
それだけでも絵になるというか、もし同じ学校の人が見たら驚いて凝視してしまうことだろう。
そして、カゴにジュースやお菓子を入れて戻ってきた二人は、そのままレジへとやってきた。
「お願いします!」
満面の笑みを浮かべるしーちゃん。
今は不審者スタイルでなければ、一人でもなく清水さんも一緒。
故に、もうしーちゃんからは以前の挙動不審が見られることはなかった。
それはちょっと寂しい気もするけれど、それ以上に嬉しいことでもあるよなと感じつつ、俺は集計を済ませる。
「えっと、全部で七百八十五円です」
「じゃあ、これで」
しーちゃんは、清水さんが鞄から財布を出そうとする手をそっと抑えて、自分の財布から千円札を取り出す。
そんな、美少女だけれど自然でイケメンな振舞いに俺はちょっと感心しつつ、その差し出された千円を受け取り精算を済ませる。
そしてお釣りを差し出す俺の手を、しーちゃんは両手で包み込みながらお釣りを受け取る。
「夏休みだけど、お仕事頑張ってて偉いね」
そしてしーちゃんは、そう言って優しく俺のことを労ってくれる。
その透き通るような頬をほんのりと赤らめつつ、真っすぐこちらを見つめてくるその姿に、俺の胸は仕事中にも関わらず高鳴ってしまう。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして、えへへ」
「はいはい、二人の世界作らないでね」
自然とそのまま見つめ合う俺達に、呆れたように声をかけてくる清水さん。
言われて恥ずかしくなった俺達は、慌てて繋いだ手を離す。
「じゃあ、わたしは先に出てるから。バイト頑張ってね、一条くん!」
すると清水さんは、そう言って商品の入った袋を手にすると、ウインクとともに先にコンビニから出て行ってしまう。
結果、他にお客様も誰もいないコンビニには、俺としーちゃんの二人きりとなる。
「今日もたっくんに会えて、嬉しいな」
「うん、それは俺も同じだよ」
「えへへ、なら良かった」
その言葉通り、嬉しそうに笑みを向けてくれるしーちゃん。
「今日はね、さくちゃんがこのままうちにお泊りしていってくれるの」
「そっか、それは良かったね」
「うん! またあとでLime送るね!」
「ありがとう、楽しみにしてるよ」
「えへへ、じゃあさくちゃんも待ってるし、またね!」
「うん、また」
他愛のない会話でも、温かい幸せに包まれる。
今はバイト中だから、こうして会いにきてくれたことが余計に嬉しく感じられるのだろう。
こうして再び微笑み合うと、小さく手を振ってしーちゃんはコンビニから去って行くのであった。
もうそこには挙動不審はなく、かと言ってアイドルというわけでもなく。
そこにいたのは、最初から最後まで俺の彼女として等身大のしーちゃんだった。
そう思えることが嬉しくて、少しこそばゆくもあり、俺はバイト中だというのに心が完全に満たされるのであった。
バイトを終えた帰り道。
スマホをいじりながら帰宅していると、一件のLimeの通知が届く。
「あ、しーちゃんからだ」
そう思わず呟きながら、俺はその送られてきたメッセージを確認する。
『さくちゃんと一緒に作りました!』
そのメッセージとともに送られてきたのは、綺麗に盛り付けられたハンバーグの写真。
バイトで疲れた俺は、そんな美味しそうなハンバーグに食欲をそそられながら、素直に『美味しそうだね』と返信する。
『あ、もうお仕事終わったんだね! お疲れさま!』
『うん、ありがとう。ちょうど今、帰宅してるところ』
『そっか、じゃあたっくんが元気出るように』
元気が出るように、何だろうか?
それからパタリと止まったメッセージが気になりつつも、そのまま家に到着する。
キッチンからは肉の焼ける良い香りが漂い、更に食欲を刺激されつつも一回自室へ向かう。
バイトで疲れた身体をベッドに預けると、ちょうどそのタイミングでしーちゃんからのLimeが届く。
すぐにそのLimeを確認すると、それはメッセージではなく画像だった。
その画像を開いてみると、それはしーちゃんと清水さんのツーショット写真。
二人でお揃いのエプロンをしながら、楽しそうに顔を寄せ合いながら微笑んでいる。
それは確かに、こうして見ているだけでも元気が貰えるようで微笑ましかった。
『今度はたっくんと山本くんにも、食べて貰おうって話してるよ!』
二人の手料理を食べられるなんて、俺も孝之も幸せ者だなと自然と笑みが零れてしまいながらも、俺は『楽しみにしてるよ!』と返事を送りつつ、今回もその可愛い画像を三回保存するのであった。
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<あとがき>
コンビニでの挙動不審はないなったけど、幸せさはマシマシな二人でした。
以下、お知らせです!
本作クラきょどですが、ついにコミカライズの連載がスタートしております!パチパチ
作画はなんと、となりける先生にご担当いただけました!
ホロライブ関連のイラストや、Vtuberのママ等々されている凄いお方です!
そんな素晴らしい先生の作画で、序盤の百面相する可愛いしーちゃんを漫画でも楽しめちゃいます!!
ニコニコ漫画様とcomic walker様で連載中ですので、まだの方は良ければ楽しんでくださいね!!
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