280話「散歩の終わり」
併設されたゲームセンターを満喫した俺達は、バッティングセンターを後にする。
しーちゃんは、「こういうところもあるんだね!」と大満足だったご様子で、またスカッとしたい時に来たいなと隣で笑っている。
きっとしーちゃんなら、そのうちホームランも打てそうだなと思えてくるのがちょっと面白くて、俺も「そうだね」と笑い返す。
こうして俺達はまた、普段は行かないエリアを目的もなく歩いて回ることにした。
とは言っても、この町は俺の地元であり、大体この辺がどんな感じの街並みか知っている。
それでも、しばらく来ない間にお店が変わっていたり、見知らぬ建物が建っていたりするため、地元ながら俺としても新鮮だった。
何より、こんな風にただ目的もなくこの町を散歩する機会なんてこれまでなかったし、それもこれもしーちゃんと一緒だから全てが楽しいことに気付く。
隣には、弾むような足取りで歩くしーちゃんの姿。
俺の視線に気が付くと、楽しそうに微笑みかけてくれる。
こんなしーちゃんがいてくれるのならば、たとえ周りに何もなかったとしても幸せに違いないだろう。
そう思えるほど、俺は俺でしーちゃんに対する好きの気持ちで溢れてしまっているのであった。
「たっくんと一緒だったら、歩いてるだけでも楽しいね」
その言葉とともに、向けられる屈託のない微笑み。
しーちゃんも同じ気持ちでいてくれていることが嬉しくて、俺もやっぱり自然と笑みが零れてしまう。
こうして一緒に、普段は来ない辺りをのんびりと散策する。
俺の目から見ても野菜の安いスーパーや、小洒落た雑貨屋さん。
そんな、小さなことでも新たな発見が得られるこの散歩は、時間を忘れてしまうほど楽しかった。
それから一通り散策を終えた俺達は、また駅前へと戻ってきた。
あれだけ真っ青に広がっていた空も、気付けば夕焼け色の染まっていた。
「たっくん、今日はありがとね」
「ううん、こちらこそだよ。会えて嬉しかった」
「えへへ、わたしもだよ」
腕に抱き付きながら、嬉しそうな笑みを向けてくれるしーちゃん。
こんな風に、しーちゃんが今日という日を楽しんでくれていることが、俺も嬉しかった。
こうして今日はこのまま、駅で解散することとなった。
ずっと歩き続けていたため、きっとしーちゃんも疲れているだろうから。
帰宅した俺は、とりあえず自分の部屋のベッドに大の字で寝転がる。
何もすることのなかったはずの今日だけれど、しーちゃんと一緒に過ごすことができた満足感に浸りながら。
ピコン――。
すると、ポケットのスマホの通知音が鳴る。
Limeの通知音だと気付いた俺は、ポケットからスマホを取り出し確認する。
何かと思えば、さっきまで一緒にいたしーちゃんからのものだった。
そしてそれは、メッセージではなく何やら画像が送られてきていた。
「画像? なんだろう?」
そんな独り言とともに、俺はその画像を確認する。
するとそれは、俺がバッティングセンターでボールを打つ瞬間を捉えた写真だった。
どうやらしーちゃんは、ネット越しで俺のことをただ見守ってくれていただけではなく、バットを振る俺の姿を写真に収めていたようだ。
『たっくん、今日はありがとう! それから、ナイスバッティング!』
『こちらこそ。まさか、写真撮ってたとは』
『えへへ、隠し撮り大成功!』
悪戯成功というように、ニコニコと笑う絵文字が添えられたそのメッセージの可愛さに、俺はついクスっと笑ってしまう。
家にいても、こうして連絡を取り合っているだけでも可愛いしーちゃん。
――文章だけでも可愛いとか、さすがだよな。
これもバカップルが故だろうか。
同じくベッドで横になりながら、ニヤニヤとした笑みを浮かべているしーちゃんの姿が容易に想像できた。
だから俺も、そんなしーちゃんにお返しをすることにした。
ファイル添付ボタンをタップし、自分の画像フォルダから一枚の写真を選択する。
それは、同じくバッティングセンターでボールを打つしーちゃんの写真。
そう、実は俺もあの時、バッティングをするしーちゃんのことを写真に収めていたのである。
考えることはやっぱりお互い同じだなと思いつつ、俺はその写真を送信するとともにメッセージを送る。
『それじゃ、お返しにどうぞ』
『あっ! たっくんも撮ってたの!?』
しーちゃんも気付いていなかったようで、俺も写真を撮っていたことに驚くしーちゃん。
そんな似た者同士な俺達だが、自分の写真としーちゃんの写真を見比べてみる。
「……こうして見ると、しーちゃんのフォームの方が綺麗だな」
野球経験のない俺だけど、どう考えても俺よりしーちゃんのフォームの方が綺麗だった。
そんなしーちゃんの多才さに納得していると、またしてもしーちゃんから画像が送られてくる。
それは、今日の最後に二人で撮ったツーショット写真だった。
二人顔を寄せ合いながら、幸せそうに微笑んでいる姿が切り取られたその写真。
今時珍しい無加工ながらも、俺の隣には天使のように可愛らしいしーちゃんの姿が映っている。
「……やっぱり、めちゃくちゃ可愛いよなぁ」
こんな天使が自分の彼女なのだという、もう何度目か分からない幸せをしっかりと噛みしめつつ、俺はその写真を今回も三回保存するのであった。
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<あとがき>
何気ない日常でも、幸せいっぱいな二人でした。
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