273話「お泊りと幸せ」
お風呂から上がると、洗面所にはちゃんと着替えが用意されていた。
いつものスウェットに、袋に入ったままの男性用のパンツ。
そんな用意の良すぎるしーちゃんに笑ってしまいつつも、有難く着替えさせて貰う。
「ありがとう、上がったよ」
そしてリビングへ戻ると、ソファーに座っているしーちゃんへ声をかける。
どこかぎこちないしーちゃんは、ばっとこちらを振り向くと顔を赤らめていた。
「お、お上がりよ!!」
お上がりよ……?
微妙に意味が違う気がするけれど、まぁ気にせず笑って返す。
「しーちゃんも入るんでしょ?」
「あ、うん! そうだねっ! 冷めないうちに入るよ!!」
冷めないうちに……?
さっきから、どうも言葉がよく分からない気がするけれど、立ち上がったしーちゃんはそのまま急いでお風呂場へと向かっていく。
そんな、家でも挙動不審なしーちゃんに思わず笑ってしまいつつも、去って行くその背中を見送る。
――さて、どうしようかな。
女の子の入浴時間は男よりも長い。
だからきっと、これから小一時間は一人だろうと思った俺は、とりあえずリビングでテレビを観て過ごすことにした。
ソファーに座ると、そこにはまだしーちゃんの温もりが残っており、お尻から伝わるその温もりに少しドキドキしてしまう。
我ながら何を考えてるんだと反省しつつ、しーちゃんの座っていたところを敢えて選んで座っている時点で確信犯なのであった。
そうしてテレビを観て過ごしていると、丁度ドラマが始まる。
そのドラマの主演は、なんとあの白崎剣だった。
色々と癖の強い男だけれど、こうしてテレビで観るとやっぱりイケメンで、何より演技力は本当に素晴らしかった。
学園恋愛モノのドラマだけれど、ヒロインの子と白崎演じる主人公のやり取りは甘く面白く、気付けば俺はそのドラマに見入ってしまっていた。
「上がりましたー!」
白崎の出演するドラマの終了とともに、しーちゃんが勢いよく戻ってくる。
パジャマを着たしーちゃんは、お肌ツヤツヤ元気百倍だった。
そしてすぐに、俺の隣に腰掛けると嬉しそうに抱きついてくる。
しーちゃんからは、同じシャンプーの良い香りがする。
俺もさっき同じシャンプーを使ったはずなのに、どうしてこうも違うのだろうか。
まぁそれはともかく、俺は嬉しそうに頬をスリスリしてくるしーちゃんの頭をポンポンしながら受け入れる。
夜中に二人きり、何をするわけでもないけれど、こうして一緒にいられるだけで幸せに包まれていく。
「ねぇたっくん、もう眠たい?」
「んー、いや、まだ大丈夫だけど」
「じゃあさ、寝室行こっ?」
おねだりするように、そうお願いしてくるしーちゃん。
寝室というワードとその様子に、俺は簡単にドキドキさせられてしまう。
しかし、しーちゃんはいつも家で一人だからこそ、今日はこうして一緒に過ごせることが嬉しがっているのが伝わってくる。
だから断る理由もない俺は、その言葉に従ってしーちゃんの寝室へ向かうと、それから眠るまで一緒にテレビゲームを楽しんだのであった。
◇
「……んっ」
伝わる体温と、その吐息の音で目を覚ますと、視界はしーちゃんの顔で覆われていた。
そして唇から伝わる、ぷっくりとした柔らかい感触。
今はしーちゃんのベッドの上で横になっており、昨晩はしーちゃんの家に泊まっていたことを寝起きの頭が理解する。
「……あ、起きた」
顔を離したしーちゃんは、そう言って悪戯な笑みを浮かべる。
そこでようやく、俺は今何をされていたのか理解する。
「……おはよう、しーちゃん」
「うん、おはよう! 目覚めのキッスだよ」
「あはは、こんな幸せな目覚めは初めてだよ」
大好きな彼女のキスで目覚める日がくるなんて、もしかしてまだ夢の中にいるのだろうか。
しかし、そのまま嬉しそうに一緒に横になるしーちゃんの温もりが、これが現実であることを表していた。
「二度寝するの?」
「ううん、寝ないよ。でも、今は幸せだから――」
そう言ってしーちゃんは、ピッタリと俺の隣にくっ付いてくる。
昨晩寝る時から、こうしてずっとくっ付いてくるしーちゃん。
俺よりも少し高い体温が、こうして傍にいてくれることの実感となり安らぎを感じる。
何をするわけでもないが、こうして一緒にくっ付いていられるだけで幸せだった。
こうして俺達は、お互いを感じ合うように、暫くそのまま寄り添いながら横になり続けたのであった。
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<あとがき>
甘々ですね!
久々の更新となってしまい申し訳ございませんでした。
更新できていない間に、クラきょどの進展がございますのでご報告いたします!
この度、本作クラきょどのコミカライズが決定いたしました!!
担当いただける漫画家の先生、およびレーベル、掲載紙等は追ってご報告いたします!
素晴らしい先生にご担当いただけておりますので、お楽しみに!!
また情報については、随時Twitterで発信しております!
ですので、よければ@korin_san_dayo をフォローいただけますと嬉しいです!
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