255話「何気ない日常」

「……わぁ~、たっくんおはよぉ~」


 次の日、いつもの待ち合わせ場所へ行くと、そこにはへろへろでいかにも眠たそうにするしーちゃんの姿があった。



「え、どうしたの? 寝不足?」

「うん……昨日ね、中々寝付けなくて」


 なるほど、それで寝不足と……。

 そこで俺は、昨日の電話の内容を思い出す。


『……えへへ、ヤバイなぁ、今日は眠れないかも』


 まさか、あれから本当に眠れなかったのだろうか。

 そんな心配をしつつも、子供の様に眠たそうに目元を指で擦っているしーちゃんの姿は、朝からとことん可愛いのであった。



「ねぇたっくん、ちょっと腕借りるね」


 そう言うとしーちゃんは、繋いだ手にぎゅっと抱きつくように、自分の頭を俺の腕へと預けてくる。

 そんな風に、朝からゼロ距離で密着してくるしーちゃんからは、今日も甘い良い香りと共に、温かい体温が伝わってきて、もうそれだけで俺は朝からドキドキとさせられてしまうのであった。



「くっついてたら、元気でてきた」


 嬉しそうに頬をスリスリとさせながら、漏れ出すしーちゃんの幸せそうな声。

 それだけで、俺の心もあっという間に満たされてしまうのであった。



 ◇



「おはよう、紫音ちゃん、一条くん」

「おはようさくちゃん!」

「おはよう」


 結局今日はくっついて離れないしーちゃんは、一緒にうちの教室へと入ってくる。

 そんな俺達に気付いた清水さんは、面白そうな笑みを浮かべながら挨拶をしてくれた。


 いつも思うのだが、ニッコリと微笑む清水さんもやっぱり美少女で、しーちゃんと二人で微笑み合っているだけで特別な空気を生み出し、それだけで周囲の視線を集めてしまう。

 そんな二人の眩い姿に、俺も自然と口角が上がりつつ自分の席へ着席する。

 とりあえず鞄から教科書を取り出し、今日も一日頑張りますかと気合を入れていると、もう清水さんとの会話は済んだのか、こっちを振り向いたしーちゃんはいきなり俺の両肩へ手を置いてくる。



「たっくん!」

「は、はい!」


 急な至近距離に迫るしーちゃんのご尊顔に、思わずドキドキしながら敬語で返事してしまう。

 しかし、それは手を置いてきたしーちゃんも同じようで、見る見る顔が赤くなっていくのが分かった。



「きょ、教室行ってきます!」

「う、うん」

「ではっ!」


 そう言うと、駆け足で自分の教室へと向かってしまったしーちゃん。

 結局何がしたかったのかよく分からなかったけれど、そんな挙動不審の理由もこのあとすぐに送られてきたLimeですぐに判明する。



『ごめんなさい、さっきは勢いだけでたっくんの肩に手を置いてみた結果、思ったより顔が近くてドキドキしてしまいました。反省しています』


 つまり、さっきのアレには本当に意味はなかったということだろうか。

 そんな、今日も自由過ぎるしーちゃんからのLimeに、俺は思わず笑いが込み上げて来てしまう。


 だから俺は、そんな反省するしーちゃんへ、反省するしおりんスタンプを返しておいたのであった。



 ◇



 昼休み。


 今日もいつもの四人で、弁当を食べている。

 俺はしーちゃんからお弁当を受け取ると、感謝の気持ちと共にお弁当箱の蓋を開ける。


 するとそこには、小ぶりなハンバーグが四つ綺麗に並べられており、その周りにはちゃんとバランスを考えてポテトサラダやプチトマトなどの野菜ベースのおかずが並べられていた。



「あっ、ハンバーグ」

「えへへ、実は昨日、お弁当用にも作っておいたんだ」

「なるほど、じゃあ早速食べられるなんて嬉しいな」


 そんなしーちゃんからのプチサプライズに、俺達は顔を見合わせて笑い合う。

 そんな俺達のやり取りに、孝之と清水さんはなんだなんだと興味深そうに話に加わってくる。



「昨日ね、夜はハンバーグにしたんだけど、上手に出来たからたっくんに動画送ったんだ」

「動画? え、見たい見たい!」

「いいよ!」


 美少女二人とナイスガイが一人、昨日俺に送ってきた動画を一緒に観だす。

 結果、清水さんはニンマリとした笑みを浮かべ、孝之は俺のことをイジるように肘でつついてきた。



「でも本当だ、美味しそう」

「えへへ、それほどでもあるかなぁ」


 褒められたしーちゃんがドヤ顔を浮かべると、吹き出すように笑い合う美少女二人。

 そんな仲睦まじい二人のおかげで、俺も孝之も仲良く昇天したことは言うまでもない。


 それからいつも通り弁当を頂いたあと、残りの昼休みの時間もそのまま四人で会話を楽しんでいる。

 すると、そんな俺達のもとへ一人の女の子が駆け寄ってくる。



「あ、三枝せんぱーい!」

「凛子ちゃん? よしよし」


 誰かと思えば、それは早乙女さんだった。

 早乙女さんと言えば、GWにアイドルフェスで会って以来の再会だ。


 そんな早乙女さんはというと、しーちゃんの姿を見つけるや否や友達の輪からすっと抜け出し、そのまま嬉しそうにしーちゃんに抱きついた。

 そんな早乙女さんのことを、しーちゃんはまるで子供をあやす様に、よしよしと頭を優しく撫でて甘やかす。


 その結果、ここの食堂に居合わせた人達は、元国民的アイドルと現役の人気急上昇アイドル二人の触れ合う姿に、完全に足を止めて目を奪われてしまっているのであった。


 まぁそんなわけで、今日も変わらない日常だけれど非日常的な光景が、うちの高校ではここ食堂で繰り広げられているのであった。



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