249話「フェスのあと」

 イベント終了後、あかりんから誘いを受けた俺達は、エンジェルガールズの楽屋を訪れることとなった。

 楽屋が並ぶ廊下を歩いていると、一番奥にあるエンジェルガールズの楽屋前には人だかりが出来ていた。

 それはもちろん、エンジェルガールズのファン達……というわけではなく、今日同じステージに立ったアイドルの子達だった。

 その中にはSSSやハピマジの子達の姿もあり、アイドルが同じアイドルの楽屋に殺到するというよく分からない事態になっていた。

 でもそれは、フェスが始まる前ではなく今ここを訪れているというのは、きっと先程のステージに魅了されてのことだろう。

 そう思えるのは、たった今自分達もエンジェルガールズのステージを見て同じ思いだからに他ならない。



「あっ! 三枝先輩!!」


 その人だかりに近付くと、その中から早乙女さんがひょっこり顔を出しこちらに向かって大きく手を振ってくる。

 その結果、そこに居合わせた他のアイドルの子達もしーちゃんの存在に気が付く――。



「「しおりんっ!?」」



 少しの硬直のあと、まるで示しを合わせたかのように発せられた同じ言葉。

 その硬直は驚きからくるもので、彼女達は突然現れたエンジェルガールズの伝説的メンバーである、しおりんこと三枝紫音が現れたことに驚きを隠せない様子だった。



「……あちゃー、目立っちゃってるかな」


 そんな彼女達を前に、しーちゃんは困り顔で自分の頭を恥ずかしそうに摩る。

 こうして引退してもなお、同じアイドルの子達までもこれ程までに驚かせてしまっているその様子に、やはりしーちゃんが特別な存在だということを再認識させられる。


 すると、我慢できない様子でしーちゃんのもとへと数人が駆け寄ってくる。

 彼女達の瞳はファンそのもので、それだけで彼女達がしーちゃんに対して憧れを抱いていることが見て取れる。



「当たり前になってたけど、本来はそういう存在なんだよな……」


 そんな光景を見ながら、孝之は感心するように呟く。

 孝之、そして清水さんも同じく、こんな風に人を惹き寄せるしーちゃんの姿に、改めて特別であることを実感させられているのであった。



「あ、来たわね」


 すると、楽屋前の人だかりの中から出てきたのはあかりんだった。

 既にステージ衣装ではなく私服に着替えてはいるものの、未だステージでかいた汗で前髪が少し張り付いている。

 そんな、一仕事やり終えたあかりんはリラックスした様子で、嬉しそうにしーちゃんと手を振り合っていた。


 他のアイドルには決して真似できないような、まさしく唯一無二と言える特別なステージを見せてくれたエンジェルガールズ。

 あかりんはそのリーダーで、現役の国民的アイドル。

 しーちゃんと行動を共にすることで会う機会は増えているけれど、芸能人オーラと言うのが適切かどうか分からないが、やはりあかりんもまた特別な存在なのだということを今は特に実感させられる。



「なーにたっくん? わたしの顔に何か付いてる?」

「え? あ、いや、なんでもない」


 すると、そんな俺に気が付いたあかりんがしたり顔でいじってくる。

 この感じはやっぱり俺の知っているあかりんで、それは二面性ではなく、普段もステージの上でもあかりんはあかりんということなのだろう。



「あかりん、お疲れ様」

「ありがと紫音。ステージの外で見るわたし達はどうだった?」

「すっごく良かったよ! でも、ちょっと振り間違えてたでしょ?」

「あはは、バレた? 紫音の目は誤魔化せないわね!」


 可笑しそうに笑い合う二人。

 そんな風に、今では立場こそ違うけれど、それでも二人は今も、そしてきっとこれからも互いにかけがえのない大切な存在なのだろう。

 そんな特別な二人の笑い合う姿に、集まったアイドル達もただ見惚れてしまっているのであった。



「あっ、あかりんずるーい!」

「紫音ちゃん!」

「来たわね」


 そして、しーちゃんが来たことに気が付いた他の三人も駆け寄ってくる。

 三人も一仕事終えたあとという感じで、この間泊まりに来た時のようにすっかりオフモードだった。


 こうして勢ぞろいしたエンジェルガールズに、周囲からは歓喜の声が湧き起こる。

 中には再びしーちゃんを加えた五人全員が揃っていることに、感涙している子までいた。



「じゃ、今日はこのあと打ち上げするんだけど、紫音も来る?」

「うーんと、今日は遠慮しとこうかな」

「あら、何か予定でもあるの?」

「だって今日は、たっくんやみんなと一緒だから」


 俺達の方を振り返りつつ、あかりんの誘いをすぐに断るしーちゃん。

 今の自分はもうアイドルではなく、普通の女の子として生きていくことを示しているようにふわりと微笑む。

 そんなしーちゃんの真っすぐな言葉に、あかりんもにっこりと微笑み返す。



「――そうね。紫音はもう、普通の女の子だものね」

「えへへ、そういうこと! せっかく誘ってくれたのに、ごめんね!」

「もう、だったら楽屋でちょっとお話しするぐらいいいでしょー!」

「わ、わたしも話したいですっ!」

「そうよ、ちょっとゆっくりしてってよ」


 こうして俺達は楽屋へ案内されると、時間の許される限り会話に花を咲かせた。


 ちなみに、清水さん推しのめぐみんと彼氏である孝之はこの時間ですっかり意気投合したようで、二人で清水さんの可愛いところをどちらが多く挙げれるか対決を始めていたのには正直笑った。


 その間、恥ずかしさで清水さんの顔が真っ赤に染まってしまっていたのは言うまでも無いだろう。



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