250話「帰り道」

 アイドルフェス会場を出た俺達は、来た時と同じ電車に乗るため駅へとやってきた。

 暫く楽屋で談笑していたこともあり、フェスに来た人達は既に去っており駅が空いていたのは助かった。



「いやぁー、まさかエンジェルガールズの楽屋にも行けるなんてな」

「もう、孝くんははしゃぎすぎだから!」

「いててて、悪かったって!」


 浮かれる孝之の腕を、睨みつけるようにぎゅっとつねる清水さん。

 俺はしーちゃんとしっかり手を繋ぎながら、そんなじゃれ合う二人の後ろを歩く。



「たっくん、今日は本当に楽しかったね!」

「そうだね」

「ねぇたっくん? ちなみに今日の子の中で、たっくんはどの子が一番タイプだった?」


 繋いだ手を楽しそうにブンブンと振りながら、いきなりそんな爆弾を投じてくるしーちゃん。


 今日は本当に色んなアイドルを見ることが出来たし、SSSやハピマジのみんなもステージの上で輝いていた。


 そしてやっぱり、エンジェルガールズは別格だった。

 最後のステージの一体感は、彼女達にしか生み出せないものだろう。

 それ程までに、彼女達のステージは頂点と呼ばれるに相応しい特別で最高のステージだった。


 思い返せば、どのグループにもしっかりとした個性があり、言葉にすると陳腐かもしれないけれどみんな本当に素晴らしかった。

 でも、そのうえでしーちゃんの質問に対して俺のすべき答えは、最初からたった一つだけだった。



「それはもちろん、しーちゃんだよ」


 俺は迷わずそう返事をすると共に、思いを伝えるようにぎゅっと繋いだ手の力を強める。

 そしてにっこりと微笑んでみせると、隣には頬をほんのり赤く染めるしーちゃんの姿があった。



「い、いやぁ、わたしはもうステージには上がってないよ?」

「たしかにね、でも前に言ったでしょ?」

「言ったって?」

「今のしーちゃんは、俺だけのアイドルだって」


 だから俺にとっては、今もこれからもしーちゃんこそが不動のナンバーワン。

 そんな気持ちが伝わったのか、しーちゃんは嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。



「もう! そうだよっ! これからもずっと、たっくんだけのアイドルだよっ!」



 そしてその感情を全面に出すように、そう言って俺の腕に飛びつくように抱きついてくるのであった。


 駅の窓から差し込む夕陽。

 やわらかな茜色に照らされたしーちゃんの姿は、やっぱり今日の誰よりも俺には輝いて見えた――。



 こうして、GW一番のイベントも最後まで楽しむことが出来た。


 今日のアイドルフェス、そしてお忍びのみやみや登場からのエンジェルガールズとのお泊り会――。

 このGW、思い返せば本当に色々なことがあった。


 でもその中でも、また新たなしーちゃんの一面を沢山知ることが出来たのが、俺にとっては何よりも嬉しいことなのであった。



~第5章 完~

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