247話「大取」

 本日の大取、エンジェルガールズの登場に会場はすぐに大盛り上がりとなる。

 今日この会場へ集まった観客の多くは、それぞれの推しを応援するために集まっているというのは、これまでのアイドルのステージを見ていて分かった。

 けれども、そんな彼らからしてみてもエンジェルガールズだけは特別なのだろう。

 この会場で生のエンジェルガールズを拝めることに、ここに集まっている全員が喜びを露わにしているのであった。


 それは坂本さんや上田くん達も同じで、ステージ上のエンジェルガールズに対して精一杯声援を飛ばしている姿が見えた。


 そう、それこそが国民的アイドルと呼ばれる所以なのだ。

 アイドルファン以外でも、その姿を一目見れば歓喜する存在。

 それこそが、エンジェルガールズというアイドルの頂点なのである。


 そして一曲目は、やっぱり代表曲の「Start」だった。

 お馴染みの名曲のイントロに、会場のボルテージは一気に最高潮まで達する。


 そしてステージ上では、これまでのどのアイドルとも違う、まさしくエンジェルガールズにしか出来ないパフォーマンスが発揮されていた。

 その優れた容姿だけではなく、歌もダンスも完璧で、その溢れ出る魅力はすぐに会場を一つにしていく。


 そんな、誰が見ても憧れを抱いてしまう彼女達が、つい先日一緒にお泊りしていたんだよなと思うと、未だに信じられないというか、死んでもそんなこと口には出来ないなと思うと笑えて来てしまう。

 しーちゃんのおかげで、特別が当たり前になってしまっていることを今になって実感するのであった。


 そんなことを思いつつ隣に目をやると、しーちゃんはニッコリと微笑みを浮かべながらステージ上のみんなを見守っていた。

 その姿は、去年のDDGのライブの時と重なって見えた。

 あの頃は、まだお互いにただのクラスメイトぐらいの距離感で、ただそこにしーちゃんがいることに驚くばかりで何を考えているのかなんて考える余裕もなかったことを思い出す。


 でも今なら分かる。

 しーちゃんは純粋にこのイベントを楽しんでいること、そしてかつての仲間達の頑張りを応援しているということが。


 するとしーちゃんは、俺の視線に気が付いてこちらを振り向く。

 そして少し頬を赤く染めると、すっと耳元へ顔を近付けてくる。



「……あの頃のこと、思い出しちゃった」


 音楽と歓声が鳴り響く中、囁かれるしーちゃんの声に俺は思わずドキドキしてしまう。

 そしてどうやら、しーちゃんは俺と同じことを思っていたようだ。

 頬を赤らめながら懐かしむように微笑むしーちゃんの姿に、俺も一緒に微笑む。


 そして再びステージへ目を向けると、エンジェルガールズのみんなはお互いを信頼し合うように目配せをしながら、阿吽の呼吸でダンスを連携させていた。

 そんな彼女達の洗練されたパフォーマンスは、流石の一言だった。

 最初は盛り上がっていた会場の観客も、気付けばそんなエンジェルガールズのパフォーマンスに釘付けになっていた。

 それ程までに、彼女達がアイドル界の頂点に立っている理由がこのステージに全て詰まっていた。


 そして、無事に一曲目を歌い終えたエンジェルガールズのみんな。



「ということで、改めましてエンジェルガールズです!」


 その言葉に、会場からは割れんばかりの声援が飛び交う。

 それはまるで、先程の一曲目に圧倒された反動のようで、口々に飛び交うメンバーの名前にはかなりの熱が籠っていた。



「ということで、わたし達が今日のイベントの最後を務めさせて頂くわけだけど、良かったのかな?」

「にゃはは、なんか申し訳なさあるよねー」

「ですです!」

「わたしは充電完了してるわよ!」

「みやみやは寝てただけでしょ。今日は本当に沢山のアイドル達が集まってて、わたし達も同じステージに立てているのは有難いことよね」

「そうだね! SSSやハピマジの子達とも仲良くなれたしねー!」


 にししと笑うめぐみんのその言葉に、会場から驚きの声が上がる。

 それはよく見なくても、元々SSSとハピマジそれぞれのファンとして集まっているファン達によるものだった。

 坂本さんも上田くんも、まさかエンジェルガールズの口から推しのグループ名が出てくるなんて思いもしなかったのだろう。嬉しそうに感涙していた。

 そんな反応を見ると、やっぱりそれ程までに特別な存在なんだよなと分からされる。



「それにわたしは、もう一人推しの子見つけたしねぇー」


 そしてステージ上のめぐみんは、そう言ってこちらへ目を向けてくる。

 その視線は俺達というより、確実に清水さんへ向いていた。


 そんな風に、いきなりめぐみんから視線を送られた清水さんはというと、顔を真っ赤にして孝之の背中に隠れていた。

 それが面白かったのか、ステージ上のめぐみんは悪戯な笑みを浮かべていた。



「じゃ、時間も限られてることだし、二曲目もいっちゃいますか!」

「そうだね!」

「はい!」

「今日はやっちゃうわよー!」


 珍しくみやみやも、やる気満々なご様子。

 こうしてフリートークもそこそこに、早速二曲目が歌われるのであった。


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