246話「ハピマジ」

 ステージ上で、弾ける笑顔が交差する。

 元気いっぱいに歌って踊る彼女達の姿は、会場で観ている人達の視線を釘付けにする。


 アップテンポな曲調に、パワフルなダンス。

 これまで多くのアイドルがステージ上でパフォーマンスを見せてくれたけれど、ハピマジにしか出来ないパフォーマンスがそこにはあった。


 まるでハピマジに引き寄せられるように、次々とステージの方へと観客が増えていく。

 それは彼女達の魅力はもちろん、坂本さんや上田くん達のような固定ファンによる熱心なコールの影響も大きいのだろう。


 開始から大盛り上がりとなる会場。

 集まった観客達から、口々にハピマジを褒め称える言葉が聞こえてくる。


 それは俺としても、少し誇らしい気持ちになってくる。

 そしてこの盛り上がりは、彼女達のこれまで積み上げてきた努力の上に成り立つものだ。

 ステージ上で最高のパフォーマンスを見せる彼女達のパフォーマンスは、まさしくそれを証明しているのであった。


 そして駆け抜けるように、一曲目を歌い終える。

 すると、それに合わせて会場からは歓声が沸き上がる。


 そんな大きな歓声に応えるように、満面の笑みと共に彼女達は大きく手を振る。

 その姿は、誰が見てもアイドルそのものだった。

 すぐ目の前のステージ上にいるけれど、決して手の届くことのない高嶺の花。

 そう思えることこそが、彼女達が更に一つ高いステージへ上がったことを意味していた。



「みんなー! 今日は集まってくれてありがとうー! 最後まで、わたし達のステージ楽しんで行ってねー!」


 リンリンの呼びかけに、再び会場は大盛り上がりとなる。

 気付けば今日一番の観客で会場が埋まっており、このフェス一番と言っても過言ではない盛り上がりを見せていた。


 そしてすぐに、二曲目のイントロが流れ出す。

 その音に呼応するように、会場からは叫ぶようなコールが飛び交う。


 こうして一体となった会場はもう、俺が心配することなんて全くの不要であった。

 この日のハピマジをその目に焼き付けるよう、熱心に応援するファンとそれに応えるステージ上のアイドル達――。



「――懐かしいなぁ」


 そんな熱気溢れるステージを見ながら、隣でしーちゃんは小さくそう呟いた。

 文字通り以前のアイドル時代を懐かしむように、呟かれたその言葉。


 エンジェルガールズというアイドルの頂点まで駆け上がったしーちゃんは、今のハピマジの姿に何を見ているのだろうか。

 それは俺には分からない。

 けれどきっと彼女達は、しーちゃんがエンジェルガールズとして成功を収めるまでに積み重ねてきたことを今辿っているのだろう。


 だから俺は、しーちゃんの手を取り笑いかける。

 そして一緒に彼女達の輝く姿を、ステージの下から一緒に見守ったのであった――。



 ◇



「みんなー! 今日はありがとー! 良かったらこれからも、わたし達ハピマジのことよろしくお願いしまーす!」

「「うぉおおおー!!」」


 三曲しっかりと歌い終えたハピマジが、ステージ裏へと去っていく。

 その姿が見えなくなるまで、会場からは声援が鳴り止まなかった。


 こうして見事大成功を収めたハピマジのステージに、坂本さんや上田くん達ハピマジ目当てで集まったのであろうファンの人達は涙していた。

 こうしてしっかりと応援してくれているファンの人達が、あんなにも沢山いるのだ。

 その光景に、ハピマジはもうあとは駆け上がっていくだけなんだろうなと思えた。



「いや、何て言うかさ、マジで凄かったな……」

「うん……」


 孝之も清水さんも、ハピマジのステージに圧倒されたように言葉を漏らす。

 元々特別アイドルに興味があったわけでもない二人も、こんなにも驚いてしまうのだ。

 それだけ今日のハピマジのステージは、やっぱり大成功だったことを意味していた。



「さぁ、次はエンジェルガールズの番だよ!」


 余韻に浸っていると、しーちゃんはそう言って切り替えるように微笑む。

 そうなのだ、あと三組挟んだあとはついにあのエンジェルガールズの出番なのだ。


 どこか誇らしげな表情を浮かべるしーちゃん。

 それはきっと、しーちゃんとしてもこのフェスの大取を務めるみんなのことが誇らしいのだろう。


 当然、SSSもハピマジも応援していたのだが、それでもしーちゃんにとっての一番はやっぱりエンジェルガールズであることは言うまでもないだろう。


 かつて自分の所属したエンジェルガールズのステージ。

 それを今はステージの下から応援する立場になっていることに対して、一体何を思っているのだろうか――。


 そんなことが少し気になりつつも、今は応援すること、そしてこのフェスを楽しむことに集中することにした。


 そうしてハピマジのあとに続いたアイドル達は、今日のフェスの終盤ということもあり、既にテレビでもよく見るレベルの有名なアイドル達だった。

 三組とも洗練された完成度の高いパフォーマンスで、非の打ちどころなんてない完璧なステージだった。

 会場は最早満員状態で、やはりエンジェルガールズと同じく第一線で活躍する彼女達の人気やレベルの高さはワンランク上というか、素人目でも分かる程凄かった。


 でも、そんな完璧とも思える彼女達でも到達することの出来ない高みに、一組のアイドルが存在するのだ――。


 そして三組目のアイドルのステージが終わったところで、会場によく知っている曲のイントロが流れ出す。

 そのイントロが聞こえて来ただけで、会場からは割れんばかりの歓声が飛び交う。



「みんなー! 今日のフェス、ちゃんと楽しんでるー?」



 マイク越しに聞えてくる、会場のみんなをイジるようなあかりんの声。

 その声と共にステージ上に飛び出してきたエンジェルガールズの姿に、会場からは今日一番の大歓声が鳴り響くのであった。


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